第二十二話「祝勝会」

 その後、そのまま大広間で、赤忍者としての昇格式が行われた。


 長老から三人に、見事なえんじ色の装束が手渡された。

「三人とも、見事じゃった。日が暮れる前にムサシをつかまえたのは、おそらく流や椿以来だろう。しかもムサシを本気にさせたのはお前たちが初めてじゃったわい。まさか焼きナスの臭いを充満させてムサシを動揺させるとはな、はっはっは。三人の知恵と連携のたまものだ。この経験を忘れるのではないぞ」

「はっ!」三人は頭をさげた。

「それにしても、ステファンの最後の鏡の知恵は面白かった。どのようにして思いついたのだ?」

 ステファンはびっくりして、言葉に詰まった。

「え、え、扉に光が差し込んでいるのが見えて……」

 まさか秋然の頭の反射がヒントになったなんて口が裂けてもいえなかった。


「おめでとう!」

 迅の家では、ステファンを囲んでささやかな祝勝会が開かれた。

 そこには松五郎や湯吉の姿もあった。

「それにしても、焼きナスとはな」

 松五郎がそう言いながら、料理で出てきた大きな焼きナスをほおばった。

「それ、秋然さんからお祝いでいただいたの。りっぱなナスでしょう?」

 アキがそういうと周囲から笑いがおこった。

「長老が兵糧攻めを避けるために隠したナスを、風太郎の目利きで見つけ出し、ステファンが焼きナスにしてムサシを苦しめるなんて、見事だし、面白い!」

 松五郎は大声でわらった。

 迅もおかしそうに焼きナスをほおばった。

「私たちの時なんか、何の考えもなしに、ひたすら追いかけごっこだったもんな、湯吉」

「ノーノー、迅。俺たちも屋敷の仕掛けの場所はほとんどわかったじゃないか」

「それは仕掛けにかかりまくって、『結果的に』わかったんだっただろう?」

「それをいうなよ、迅」

 おどける迅と湯吉に、ふたたび笑いがおきた。


「それにしても、あの屋敷の奥にそんな仕掛けがあるなんて。だれが作ったの?」

 エミーラが、初めて屋敷を訪れたときのこと思い出しながらきいた。

 アキがこたえた。

「はじめはあんな仕掛けはなかったんだよ。でも、長老がなにかあったときのためにって、人に頼んで改造してもらったんだ。あのときも秋然さんは大反対だったけど」

 皆、秋然が反対する姿を思い浮かべて吹きだした。

 ステファンは顔のあざをさすりながらいった。

「僕もだいぶん痛い目にあいましたよ。実際に仕掛けが刃物だったら侵入者はたまったもんじゃないでしょうね」

「そうなんだ。十年前の戦いでは、あの屋敷がなかったらあぶなかったよ」

 そういって、アキは静かにうつむいた。迅や湯吉たちも寂しそうに顔をしている。

 アキがあわてて顔をあげた。

「あら、ごめんよ、せっかくの祝勝会にしめったことを言っちゃって」


 ステファンは『十年前のこと』が気になったが、アキが明るい声で場を取りつくろおうとしているので、かわりにカラクリ屋敷の仕掛けを作った人のことをふたたびたずねた。あの仕掛けはどれも精巧にできていて、かなりの腕の職人であることは一目瞭然だったからだ。

「あの屋敷の仕掛けは、だれに頼んで作ったのですか?」

「それが、名前は知らないんだけど、その人を見たときにびっくりしたんだよ。なにせ顔から足まで全身真っ黒の人だったんだよ。当時はこの里でも大騒ぎだった」

「全身真っ黒……!?」

 ステファンとエミーラはおどろいた。

「あ、あれ、どうしたんだい? また私、なにかいけないことをいったかい?」

 二人の様子をみて慌てるアキに、心配しないように首を振ってこたえた。

「いえ、私たちの国ではそんな人がたくさんいるんです。私たちの友人もそうでした。でも、まさかバルアチア人がこの里にかかわっていたとは」

「たしかにそうだね、松さんは知っているかい?」

 アキの問いに松五郎は腕を組んで考えこんだ。

「うーん、私の来る前だったのでよくは知りませんが、伝説のカラクリ職人についての噂は聞いたことがあります」

「伝説のカラクリ職人?」

「ええ。かなり腕の立つ職人で、空を飛ぶ鳥のカラクリまで作れるとか?」

「カ、カラクリで空を飛ぶ?」迅はおどろいた。

 隣の湯吉は、ほへぇ~、と言いながら目を輝かせて妄想の世界へと突入した。

 ステファンもおどろいた。自分の国では、科学の力で空を飛ぶ技術が研究されているが、科学の力なしに空を飛ぶことなんてできるのだろうか。


「なんにせよ、長老なら知っていると思うので、また明日にでも聞いてみるか?」

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