第30話 初依頼

 ゴルディさんと和解し、今度こそ売却カウンターに向かう。

 売却カウンターの受付には、凛とした顔立ちをした狼獣人と思われる女性がいた。


「すいません、魔物の解体と売却をお願いしたいのですが」

「かしこまりました。解体する魔物は『亜空間袋アイテムバッグ』に収納されているのでしょうか?」

「はい、そうです。ちょっと量があるので、一度に渡せるか不安なんですが、どうでしょうか」

「地下に解体所と冷蔵倉庫がございますので、大丈夫です。ただ、お預かりした魔物の量が多い場合は冷蔵倉庫に保管し、数日に分けて解体する形となりますがよろしいでしょうか?」


 なるほど、冷蔵倉庫で素材の鮮度を保つわけか。

 確かに食肉に出来る魔物とかだと、冷蔵倉庫がないと解体なんて頼めないな。


「はい、特に急いでもいないので、数日に分ける形で大丈夫です」

「かしこまりました。では、解体所へご案内します」


 そうして、売却カウンター脇の地下への階段に案内される。

 地下に降りると解体台がいくつも並んでおり、そこかしこで魔物が解体されていた。


「兄貴、客だよ」


 受付のお姉さんがその中の一人に声をかける。

 すると奥から受付のお姉さんに似た、クール系のイケメン狼獣人がこちらへ来た。


「いらっしゃい、魔物の解体か?」

「あぁ、『亜空間袋アイテムバッグ』持ちで、結構な量があるそうだ」

「へぇ。しかしそんな量溜め込んで、鮮度は大丈夫なのかね? あまりに腐ってる魔物持ってこられても困るぜ?」


 普通の『亜空間袋アイテムバッグ』は時間停止できないから当然の心配であろう。

 『亜空間庫アイテムボックス』は時間が停止できるから鮮度の心配はないけど。


「あー…… 鮮度は大丈夫だと思いますが、とりあえず見てもらってもいいですか?」

「あぁ、分かった。奥に広間があるからそこで出しな」


 そうして奥の広間に連れてこられたが…… この広さに収まるかな……?

 何匹魔物入れてるかもはや覚えてないから分からないけど、とりあえず端から並べていく。


「ほぉ、綺麗な切断面だ、兄ちゃんやるな。しかも鮮度抜群じゃねーか。ここら辺は狩りたてのやつか?」

「あー……そんな感じですね」


 時間停止しているわけだから、本当に狩りたての状態なんだよな。

 とりあえず誤魔化しながら魔物をどんどん並べていく。


「……おい。まだあるのか? そんな小さい『亜空間袋アイテムバッグ』でこんな容量はおかしくねぇか?」

「あー…… たまたま容量が大きい『亜空間袋アイテムバッグ』だったんですかね」

「おい…… しかも何奴も此奴もまるで狩りたてなんだが…… どういうことだ?」


 そうこうしている内に広間にギッシリ魔物が埋まった。

 実はまだちょっと残ってる。


「おかしいだろぉぉぉ!! こんな馬鹿みてぇな容量の『亜空間袋アイテムバッグ』なんて見たことねぇぞ!! しかもすべて鮮度抜群!! まるで時間が止まってるみてぇだぞ!?」


 ついに狼獣人兄が切れた。

 そうか、普通の『亜空間袋アイテムバッグ』はそんなに容量がないのか…… 勉強になったな。

 説明しなければ話が進まなそうだ。

 ギルド職員が簡単に顧客の情報流出しないだろうし、正直に話すか。


「ごめんなさい、これ、実はただの袋なんです。本当は魔術で違う空間に収納してて、時間も停止させてます。ただ、あまり目立ちたくないのでこの話は他言無用でお願いします」

「……なるほどな、それなら納得だよ。ったく、それにしても凄まじい魔術だなおい。確かにこれはあんまり公にしない方がいいな」

「すいません、あとちょっと魔物残ってます」

「……これ以上は冷蔵倉庫にも収まんねぇよ。時間止まってるってんなら明日また持ってきてくれや。それまでにある程度捌いとくからよ」

「はい、お願いします」


 狼獣人兄に解体を任せ、狼獣人妹と上の階に戻る。


「あなたはいいお得意様になりそうですね。私はリュコス、兄はヴォルフと言います。今後もよろしくお願いします」

「僕はシリウスです、これからもよろしくお願いします。あぁ、僕みたいな子どもに敬語じゃなくても、普通に話してもらって大丈夫ですよ」

「あぁそうかい? それじゃそうさせてもらうよ。よろしくね、シリウス」


 なんとも切り替えの早い人だ。

 ニカッと笑うリュコスさんと握手をし、売却カウンターを後にした。



 せっかく冒険者になったことだし、何か依頼でも受けてみようと依頼ボードを見に行く。

 ギルドへの依頼は張り紙としてボードに張り出されている。

 その張り紙の下には依頼札があり、それを持って受付に行くと依頼を受注することが出来るシステムだ。

 依頼札の枚数は依頼によって異なり、一人しか受注できない物から何人でも受注できるものまで様々だ。


 受けるなら、入学試験があるから三日以内にこなせそうな依頼が良いな。

 そう思い探していると、やはり手頃な討伐依頼が目に入ってくる。


 例えば街の周辺に出てくるスライムや獣系魔物の討伐が最も手軽だろう。

 大体十匹が最低ラインで、それ以上は狩った数だけ貰えるギルドポイントや報酬が増えるようになっている。

 またこの街周辺の魔物討伐依頼は国からの依頼であるため、安定して常に募集がかかっているし、人数制限や日数制限もないようだ。

 大きな稼ぎにはならないが日銭を稼ぐには持って来いな仕事と言えるだろう。

 とりあえず短期で依頼達成でき拘束性も低そうなので、試しにスライムや獣系魔物の討伐依頼を受けてみることにした。


「はい、シリウス君の初依頼ですね。でも入学試験も間近ですし無理しないでくださいね」

「はい、ありがとうございます」


 冒険者ギルドを出て、すぐに街の外に魔物を狩りにいく。

 剣術と魔術の鍛錬を行いつつ魔物を狩っていたら、また大量の魔物素材のストックが出来てしまい、暫くは在庫が無くなりそうにないなと心の中でヴォルフさんに謝った。

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