第一話 ここはどこだ??の暇もなく
「Are you …日本人か?」
気が付くと、柴田の周りには人だかりが出来て、そこに駆け込んできた白人の男性に声をかけられる。
最初は英語だったのに、途中から映画の吹き替えのように日本語に。
当然、口の動きと声は一致していない。
「Yes…はい、そうです。すみませんがここはどこですか?」
「ようこそ、異世界の『ヴィレッジ』へ。私は、ここの異世界人側の何でも屋、ロジャー・トムリンソン、アメリカ人だ」
「トシヒロ・シバタです。よろしく、ミスター・トムリンソン」
「ロジャーでいい。『トシ』と呼んでもいいかな?」
「ええ、かまいませんよ。ヴィレッジってなんですか??」
「異世界の難民キャンプのようなところさ。やっと話の通じそうな日本人が出てきてくれたかな?」
「え?どういうことですか?」
「あっちとそっち、見てもらっていいか?」
「!!!!!」
その異様な光景に、柴田は目を丸くする。
「…映画とかのロケご一行様では…なさそうですね?」
「ああ、正真正銘の本物の皆様方のようだが、どうアプローチしたもんだか」
柴田の見つめる先には、周囲と明らかに違う空気を漂わせている集団が二つ。
片方は、見える範囲では江戸時代の武士の集団に、もう片方は一部違う服装の者も見えるもの、第二次大戦時の日本陸軍の略装のように見える。
「ここにきていきなりで申し訳ないが、トシ、協力してくれないか?」
「これは弱ったなあ…そりゃあ自分で出来る事はしますが。ロジャー、今まで彼らにアプローチは何かしました?」
「近くへ行くと、斬りかかろうとしたり威嚇発砲されたりするので、配給の食事を置いてくるだけだ?」
「それが賢明でしょう。ほかの日本人は?」
「何人かに協力を求めたんだが…」
ロジャーの沈黙が、答えを意味していた。
「でしょうねえ…今までに犠牲者って出てますか?」
考えたくはないけど、どちらも事態が飲み込めていない状況での…というのを柴田は思わず想像した。
「テーマパークと勘違いしたのか、飛び込んでいって暴言を浴びせて銃剣でメッタ刺しにされた日本のガールが一人、私でさえ耳をふさぎたくなるような暴言を日本兵たちに浴びせ続けて、指揮官と思しき人物が射殺したアメリカ人男性一人、どう見ても喧嘩をふっかけてサムライグループに飛び込んで行って、斬殺された日本のボーイ三人組…くらいだな」
「…よくそんなもんで済んでますね」
「アーミーもサムライも、リーダーがよっぽど理性的なのか、そんな程度でどうにか治まってる。こちら側から挑発しに行きそうなバカは、地元の魔法使いとか騎士団に頼んで拘束してもらっている」
これだけここにいる人間の時代の幅が広すぎて、それが日本人だけってことは柴田は思えなかった。
「当然、日本人だけ…ってこともないですよね?」
「ああ、半ズボンの子供が『フォルスト・ヴェッセル』歌いながら、右手を挙げて行進…なんてこともあったし、このキャンプのど真ん中で南北戦争も起こりかけた…」
犠牲者には申し訳ないが偶発的な悲劇で、その程度で今まで治まっていたことに逆に驚愕した柴田であった。
「ロジャー、彼らに食事はどんなものを?」
「我々が食べているものと同じ、パンやスープ、日によって肉を焼いたものとかも付けてる」
「米や魚って手に入りますか?」
「兵糧攻めでもする気か?」
「確証は全くないですが、いつまでもこうしてもおけないでしょうし」
「魚はちょっと無理そうだな。ライスは地元の連中は食わないらしいが、作付けはされてるらしい」
「出来るだけ、たくさん集めてもらうことって可能ですか?」
「ここの領地のエライさんに、掛け合ってはみるが…突然、我々がここに大量に出現しているので向こうも困り果ててるらしい」
米はあるようだ。それは大事だが、ほかに手に入りそうなモノは?
「酒はどんなのがあります?エールとかワインくらいですかね?」
「ああ、そんな感じで思ってくれていい」
さすがに、日本酒や焼酎などに似たものは期待しない方がいい。
「まずは、米の飯を与えて二つのグループのリーダー格に状況を理解させるのが先決でしょうねえ。彼らも我々と同じ立場な訳ですし」
「それはそうだが…」
「ロジャー。この場において、ウォール街やシリコンバレーで画面見ながら数字遊びする事しかできない連中と、大昔、ボストンの港で紅茶の木箱を海に投げ込んだ連中…どっちが役に立つと思います?」
こういう言われ方をされなくても、理解できるだけの頭脳はロジャーは当然持っている。
「異世界に飛ばされたということは、彼らにはなかなか理解しがたいことでしょうが、この地の人たちに近いのはおそらくサムライのグループかもしれませんね。馴染めるかどうかはその人次第でしょうけど、私よりもロジャーの方がよっぽど解っているのでは?」
「確かにな。でもそうなると、厄介なのはアーミーの集団ってことになるが?」
「個人的な印象でしかないですが、おそらく纏めているのは中隊長か大隊長クラスで、それ以上の高級将校はいない気がします」
「部隊がそっくり飛んできた…というわけでもなさそうだしな」
「ええ、状況が見えていない無能な指揮官だったら、とっくにバンザイ突撃していたかも?戦闘態勢を装ってはいますが、手持ちの実弾とかほぼ底をついているでしょうし。誰も指揮官とはコンタクトできていないのですか?」
「彼らは、敵地のど真ん中に放り込まれた…と思い込んでいるのも多いようでねえ。抑えられているのだから、纏めている奴はそうは思っていないかもしれないが、それに確証が持てないのだろう。白人が近づくと問答無用で発砲してくるし、日本人は逃げ隠れしているか、さっきの犠牲者みたいな行動になるかでなあ」
「どう出るかは解りませんが、コメの飯で釣れるということもないでしょうけど、ひとまずそれは早急にどうにかして工面していただきたいです。ロジャー、ひとまず私に何か食事とお茶をいただけないですか?」
異世界に着いて早々、難題を押しつけられたが今ここで直ちに終わらせなくてはいけない話でもない。いきなり専門家でもないのに戦況分析みたいな事をロジャーにさせられて、柴田も疲れたようだ。
「私はここが『ヴィレッジ』だとしかまだ聞いてないんです。ここがどんな所で我々がどういう状況、武士や日本兵の集団はさておき、まさかこの状態でずっとって事もないのでしょうが、そういったこととかも教えてくれませんか、ロジャー?」
さすがにロジャーも、転移早々柴田を引き回したことに気が引けたのか、
「トシ、済まなかった。でも、おかげで彼らとどうにかコンタクトは取れる気がしてきた。大したもてなしは出来ないが、食事をしながら『ヴィレッジ』の話とか聞いてくれるか?」
「分かりました、でも痛い出費になるかもしれないですよ?」
「おお、怖っ」
おどけながらも戦々恐々とするロジャーと一緒に、柴田は『ヴィレッジ』の管理施設の方へ歩いていった。
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