第20話梨奈から見たサトル
私がコルクというキャバクラ店で4年間働いている間には色んな事があったな。最後の方で関わったサトルという人物は変わっていた。コルクではピアノが置いてあったのでふざけて弾くお客さんはたまにはいた。だからサトルの演奏には驚いた。サトルは最初、自分で作曲したという曲を弾いてくれた。その旋律はなんだか友達と飲みに行った帰りの少しせつないような感じがした。次にサトルが来てくれた時にもう一回その曲をリクエストしたけど弾いてくれなかった。その代わり私が「千本桜」という曲が好きだと言ったら普段は自作曲しか弾かないと言っていたけれど、練習してきてくれた。
そんなキレイな音楽を弾いてくれるサトルが私に家に泊まらせてと言ってきた時はガッカリしたよ。お客さんだからその後も連絡は続けてみた。その後も会って話したりしているうちにマジメなトコも見せてくれたかな。
ある時サトルは結婚している事を打ち明けてくれた。その時私は付き合っている彼氏がいたけど、そこはどうしても本当の事は言えなかった。
私は彼氏の影響もあってダイビングに熱中していた。私がキャバクラを辞める時、彼にお客さんの連絡先を全部消すように言われた。特によく来てくれたあるお客さんの事を彼は嫌がって、私がLINEで「もう連絡はしません。」という文言を書いたのを彼が確認して"送信"を押した。
キャバクラのお客さんではサトルだけ残す事が出来たと言った事があった。そういえばそのあとに「野菜雲」に「コルク」のお客さんが来た時、「あの人もコルクのお客さんだよ。」って言ったけど、それは私のお客さんという意味じゃなくて、コルクに来ているお客さんだよ、っていう意味。
サトルは音楽だけではなく、私とのエピソードを小説にしてプリントアウトして持ってきてくれる事があった。あの小説を隠しておくのを忘れてて彼氏が家に来た時は焦ったな。裏にして置いてあったから何かのファイルだと思ったみたいで見つからなくて済んだケド。
私が"野菜雲"で働くようになってからサトルから連絡があり、サトルは時々お店に飲みに来てくれた。サトルは私と飲みに行きたいような事を示唆していたけれど、「野菜雲」は拘束時間が長くて重労働だったし、あまり言えないけど人間関係の悩みもあって疲れていたから応えられなかった。
サトルは"野菜雲"に友達を連れて来たり、お店のメンバーと打ち解けたりして楽しそうだったよ。そのうち飲みに行っても良いかなと思っていたよ。
私は5月に"野菜雲"を辞めて、老人ホームの食堂に社員で転職した。6月になり、そのタイミングで、ふとサトルのことを思い出した。いまだったら友達として飲みに行っても良いかなって気分になった。
私はiPhoneを取り出してサトルに「飲みに行かない?」と送信していた。
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