第40話 魚を食べると頭が良くなる
塔の外では何度も爆発音や衝突音が響いているのだが、こちらは揺れる事もないし振動もほとんど感じない。
「派手な音を立てている割には塔は揺れませんね」
「それだけスフィーダ様の氷塊が硬くて分厚いって事ね」
「でも、あれは魔法協会の門を壊した技でしょ?」
「そうね。アレは光の魔法を剣撃に乗せた技よ。結界を壊す力は大きいのだけど、物理的な破壊力はそれなりにしかない」
「なるほど」
「あそこは当分突破できないでしょうから、私たちはお食事にしましょう」
そういう事らしい。
半植物の老人、エドラ・ルクレルクは空腹を満たしたからか、すやすやと眠っていた。俺たちは彼が残した……というか、あまり食べていなかった……料理を三人で美味しく頂いた。特に腸詰め。これはメチャ美味かった。溢れる肉汁と粗挽きの肉片の感触がかなりキタ。レモンみたいな柑橘系の酸味とコショウの利いた味付けも良かった。多分、高級なソーセージには似たような商品がある気がするのだが、貧乏学生の俺とは未だに出会えていない。俺の友といえるのは赤っぽい色の魚肉のアレだしな。
別に卑下している訳じゃないぞ。魚肉ソーセージといえども美味いしな。そりゃ本格的なものと比較をするなら味も食感も全然違うのだが、魚肉ソーセージにも長所はあるんだ。高タンパクで低脂肪。そう、体にいいのだ。そして魚を食べると頭が良くなるんだぞ。そうだ。頭が良くなるんだ。つまり、貧乏人の味方である魚肉ソーセージは正義なのだ。
とは言うものの、本格派のソーセージの破格の美味さは認めざるを得ないのだが……あははは。
「壮太君。美味しかった?」
「はい。何と言いますか、美味しかったです。特にこの腸詰めですね。日本では高級品なんですよ。俺は庶民だから、こういうの食べた事が無くて」
「そう。それは良かったわ。壮太君の住んでいる世界は非常に豊かだって聞いてたから。この世界の食べ物が合うかどうか、少し心配してたの」
「俺は貧乏学生でしたからね。粗食には慣れてますから心配しなくても大丈夫です。でも、今日の料理は粗食には入らないと思いますよ」
「そうなのね」
そうなのだ。俺は日頃、頭が良くなる魚肉ソーセージを食っているのだからな。
シャリアさんとそんな話をしていたら、エリザは床に毛布を何枚か重ねて敷きはじめた。今夜の寝床を作っているのかな。しかし、これはどう見ても三人分の広さはない。一人と半分くらいのスペースだぞ。
「シャリア様。こんな感じでよろしいでしょうか?」
「ええ。それでいいわ。三人くっついて眠りますから」
「ふふーん。壮太。興奮するなよ」
いきなり何の話?
三人くっついて寝る?
興奮するなだと?
「うふ。明日に備えて今夜は早く床に就きましょう」
「はーい」
何故かノリノリのエリザである。
まさか、俺に生殺しの地獄を見せつけるつもりなのだろうか。明日に備えて眠れるのかどうか、非常に不安である。
シャリアさんは何処からか取り出した黄色い木の葉を火鉢の中へ落した。
「ギラーラ様。こちらへおいで下さい」
ギラーラ様って誰?? って思った瞬間に、火鉢の上に炎の顔が現出した。これって火の精なのか。
「シャリアか? 久しぶりだな。随分と太ったようだが」
「これは、ぽっちゃり系の女の子に変化しているだけで、私が太った訳ではありません」
「本当か? 私の目にはお前の素の姿も見えているぞ。腹回りが少し……」
「それ以上は言わないで!」
急に厳しい口調になる。
「ふう。余計な事は言わない約束でしょ?」
「そうだったな。すまない」
「今夜はスフィーダ様の結界内で一夜を過ごします。万一凍えてしまわないように、ギラーラ様にご加護をお願いいたします」
「そういう事か。わかった」
「それと、何か侵入して来る者がいれば焼き払ってください」
「いいのか? スフィーダが怒らないか?」
「大丈夫です。日の出までで結構です」
「わかった」
そう返事をした炎の顔は、ひときわ明るく輝いた後にすうっと消えた。そして、火鉢があからさまに熱くなった。輻射熱が段違いに上がったような気がする。やっぱりギラーラは火の精で間違いない。
シャリアさんって何気に凄い魔法使いなんだ。氷の精のスフィーダと火の精のギラーラ、その両方を召喚して使役しているのだから。
「さあ、壮太君。寝ちゃいましょう」
そう言って、豊満なイチゴの胸を押し付けてくるシャリアさんだ。
「ああ? シャリア様。ズルいです」
そう言って、ナイスバディをくねらせて俺に抱き付いてくるエリザ。
「エリザ。今日はダメだよ」
「うん。わかってる。明日ならいい?」
「それは壮太君次第ね」
俺……次第?
ちょっと謎だが、もしこれを、俺の低俗な願望に当てはめるならば、明日の夜はエリザとムフフ♡な夜を過ごせるという事になるのだが。彼女いない歴19年の俺が、念願の初体験を済ませられるという事なのだろうか。エリザは興奮するなといったが、これは興奮するに決まってる。
「じゃあ壮太君、おやすみなさい」
「おやすみ♡」
右からシャリアさん。左からエリザが俺の頬にキスした。これは何なんだ。この、真っピンクなシチュエーションは! 客観的に、俺たちはヤバイ状況なんだぞ。塔に立てこもって氷の壁で防いでいるだけなんだぞ。捕まったら拷問されるのは確定だし、もしかしたら殺されちゃうかもしれないんだぞ。この安全な環境は一時的なものじゃないのか? 安心していいのか? どうなんだ??
俺の理性は必死に訴える。欲望に流されるなと。
しかし、俺の感性はというと、見事に崩落したらしい。心の奥から湧き上がる欲求に従えと俺を突き動かしている。
左右両側から抱きついて来ている二人の背に腕を回してきつく抱きしめる。そして、わき腹から腰、お尻へと手を這わしていく。イチゴの豊満なお尻。エリザの引き締まったお尻。二つの美麗なお尻を撫でながら、俺のアレは最高の昂ぶりを見せていた。ああ……このままやっちゃえ……と思った瞬間、俺は独りぼっちで床に転がっていた。エリザもシャリアさんも俺の両側にはいなかった。
理由はよくわからないのだが、この部屋は瞬間的に朝を迎えていたようだ。
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