行列

男は街中で行列に出くわした。先頭も最後尾も見えない長い列だった。何の列か気になって、先頭へ辿ってみることにした。並びに合わせて角を左に折れると、先頭はまだ見えなかった。定規を当てたようにまっすぐ並んだ人々が、歩道の端にずらりと立っていた。しばらく歩くと、列は再び左に折れた。角を覗くと、列はまだ先へと伸びている。誰もがスマホをいじり、人々の後頭部を見ながら歩くしかなかった。次の角も、その次の角も左に折れていた。先頭はまだ現れず、やがて男はこの行列に出くわした元の場所まで戻ってきてしまったことに気がついた。終わりもはじまりもない行列。男は、ふいに自分も列に並びたいという強い思いに駆られた。入れてほしそうな素振りで行列に近づいてみたが、誰も譲ってくれそうになかった。近くにいた若い女が、男を見もせずに親指を立てて後ろを指し示した。最後尾に並べという意味だが、この列には切れ目がないのだ。男は少し広めの隙間を見つけると、体を横にして割り込もうとした。すると、前後の人がさっと動いてスペースを塞がれてしまった。別の隙間で試しても同じ結果だった。誰一人として一瞥もくれないまま阻んでくるのだ。男は気持ちを奮い立たせ、新しく見つけた隙間に素早くかつ強引に手を差し挟んでみた。その手は後ろの中年に邪険に払いのけられ、男は列から弾き出された。もはや手段は選べないと、やや大袈裟に地面に倒れ込んで痛い痛いとわめいてみた。それでも誰の注目を引くこともできなかった。男は、急につらい気持ちに襲われて目に涙を浮かべた。そのとき、行列の前方で動きがあった。人々が一歩ずつ前に詰めはじめたのだ。ずいずいずいと順番に前に詰めていく。一歩ずつ、一歩ずつ。そのゆっくりとした小さな動きはまるでウェーブのように男の方に迫ってきて、そして前を通りすぎていった。男は涙をぬぐうのも忘れ、その光景に見とれた。やがてウェーブが後方の角へ消えていくと、男ははっと立ち上がった。何とかして自分も流れの一員になりたかった。そうしなければいけないと思った。だが、目の前の行列は揺るぎない結合を持って横たわり、男を微塵も寄せつけないのだった。


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