第十九話『別れの日』

頁伍拾捌

 どうも。随分と涼しくなってきましたね。

 こんな時期には体調も崩しやすいので注意してくださ……ああ、すみません。

 職業上、つい口煩くなってしまって。もう隠居した身ですが。


 ふふ。もう待ちきれないようですね?

 大丈夫です、ちゃんと分かっていますよ。


 今日も、ゆっくり話しましょう。


──────


 全員で集まっての話が終わったあと、僕達は地上の建物に泊まらせてもらう事になりました。

 そこは地下から直接繋がっていて、表向きはただの一軒家として建っているそうです。

 不死者総滅隊ふししゃそうめつたいの方々は、そこで家族として暮らしているとの事でした。


 ふと疑問に思い、何故僕達が地下に通じる路地裏から案内されたのか仇篠さんに聞いてみると、


「表から突然、旅人を二人も入れたら目立つだろ。あまり目立ちたくないんだ」


 と言われました。念には念を入れて……と言った所でしょう。

 部屋に案内されて一息つくと、白咲さんとこれから虎遠さんに対する疑惑についてどうするのか話し合う事になりました。


「『多重霊魂結界』……でしたっけ。あれを持って透無虚鵺とうむからやに対峙するのは、白咲さんと虎遠さんという事になりましたが……」


「そうね。奴と直接会った事があるのは私と春君にあの人、あとは逸弥さんしかいない。そして戦えるのは私と虎遠さんだけ。それは必然と言えるでしょう。けれど……」


「虎遠さんは、不死者かもしれない……ですよね?」


「……ええ」


 元不死者総滅隊ふししゃそうめつたいだった滝守たきすさんの証言で、僕達は彼が三十年前から外見が全く変わっていない事を知りました。

 当時三十代だとしたら現在は六十代という事になりますが、虎遠さんはそのまま三十代にしか見えませんでした。


「だけど、逸弥さんによると魔力の多い人は老化が遅くなるそうじゃないですか。あの人もそうなのでは……?」


「出来ればそう思いたいけれどね……。どのみち、確認する必要はあるでしょう。流石にそこをあやふやにしたまま、あの人に従う事は出来ない」


「確かに……」


 もしも虎遠さんが不死者だった場合、透無虚鵺とうむからやを追い詰めた瞬間に寝返るかもしれません。

 そうなった場合、一番危険なのは白咲さんです。

 彼女はそれを危惧していたのでしょう。


「だけど、どうやって確認するんですか? 尋ねても答えてくれるとは……」


「問題はそこなのよね……。隊を辞めた人の証言一つだけでは弱いだろうし、せめて視魂鏡しこんきょうさえあれば……」


 これまでも度々話に出てきましたが、視魂鏡しこんきょうの説明をした事はありましたっけ?

 やはり、していませんでしたか。では少しだけ脱線して、説明をば。


 視魂鏡しこんきょうとは、魔術と錬金術を組み合わせて作られる特殊な鏡です。

 この鏡で人間を映すと、その人物の魂の色に合わせて、鏡の色が変わる仕組みになっています。

 白咲さんの説明によると、不死者総滅隊ふししゃそうめつたいには古くから不死者を見分けるための専用の視魂鏡しこんきょうがあったらしいのですが、元の隠れ家が襲撃された際に全て割られてしまったそうです。


「……白咲さん。ふと思ったんですが、逸弥さんなら視魂鏡しこんきょうを作れるのでは?」


「なるほど……。魔法使いなら、それくらい出来そうね」


 僕の思い付きに、白咲さんは合点がいった仕草をしました。


「僕が逸弥さんに頼んでみます」


「ええ。よろしく、春君」


「はい!」


──────


「逸弥さん、少々よろしいでしょうか?」


 部屋のドアをノックすると、僅かに開いた隙間から彼女が顔を出しました。


「ううん……。仮眠を取ってたんだけどね」


「そうだったんですね……。失礼しました。あとで出直しましょうか?」


「いいや、丁度良いから起きるよ。それに、用があるから私の部屋に来たんでしょ? 話聞くから、入って」


「はい」


 逸弥さんの部屋は、──まあ、失礼な話だと思いますが──意外と片付いていました。


「好きな所に座ってー」


 僕が部屋の中心にある椅子に座ると、逸弥さんはそこからテーブルを挟んだ向かいの席に座りました。


「それで、私に何の用があるのかな?」


「はい、実は……」


 僕は、虎遠さんがもしかしたら不死者かもしれない事、そしてそれを確かめるために、専用の視魂鏡しこんきょうが必要な事を話しました。


「…………そうか……」


 全ての話を聞き終わった逸弥さんは、酷く項垂れてしまいました。

 無理もありません。ようやく出会えた命の恩人が、もしかしたら不死者かもしれないと言うのですから。


「あの、大丈夫ですか……?」


「少し堪えるけど、裏切られるのはとっくの昔に慣れてるよ。確かにその話が本当なら、立華さんは心配だろうね」


 自身の頬を二回ほど叩くと、逸弥さんは力強く頷きました。


「分かった、さすがにその視魂鏡しこんきょうは作れないけど、私のかつての仲間の一人が昔、不死者の判別機を作った事があってね。それの再現でいい?」


「はい。それでは、お願いします」


 僕は頭を下げて逸弥さんの部屋を出ようとしましたが、


「あ、そうそう。ついでに立華さんに伝言を頼めるかな?」


 そう呼び止められました。


「いいですよ。何とお伝えしましょうか?」


「『大切な話があるから、あとで部屋に来てほしい』って」


「分かりました」


 僕はその内容に興味を持ちつつも、自分の部屋に戻りました。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る