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次の日、再び僕達の部屋に汀良さんが訪れました。
「……またお邪魔してごめんなさい。でも、本当に私は──」
「私は貴女を殺さない」
白咲さんは汀良さんの目を見て、はっきり言いました。
「白咲さん……」
「貴女は、もう既に罰を受けている。それを断ち切る事は、貴女を救う事になるわ。……私は人間を殺さないし、不死者を赦さない。だから私は、貴女を殺さない」
「……そう。貴方さえ、そう言うのね……」
汀良さんは強く唇を噛み締めていました。その表情はとても悔しそうで、それほどまでに強く願っていたのかと思うと、僕はとても心苦しく感じました。
「……『貴方さえ』? それは……」
白咲さんが問うと、汀良さんは苦々しい顔のまま答えました。
「一か月前に、白咲さんと同じ
「人達って、複数人だったの?」
「……そうよ。でも
「いえ、僕は成り行きで白咲さんと旅をしているだけで、
「ええと……」
汀良さんは首を左右に傾けるて考える仕草を何回かしました。そして思い出したのか、ぱっと顔を上げました。
「他の四人はあまり話さなかったから覚えてないけど、二人だけなら思い出せたわ。一人は眼帯をした縁詐虎遠という屈強な男性で、もう一人は
「逸弥さんが!?」
はい、その通り。逸弥さんは義肢装具士をしている魔法使いです。前に壊れた白咲さんの義肢を新調してくれた人ですね。
ええ、それはもう驚きましたよ。
まさかこんな所で逸弥さんの名前を聞くとは思いませんでしたから。
しかも、僕達が今から会いに行こうとしている、
驚かない方がおかしいでしょう。
白咲さんも流石に大きく驚いていました。
「彼らは何処に行くか言ってた?」
「これから帝都に戻るって聞いたけど……。仲間なのに知らないの?」
「少し事情がありまして……。白咲さん」
「ええ。有益な情報をありがとう。だからと言って、貴女を殺しはしないけれど。でも、助かったわ」
白咲さんがそう言うと、汀良さんは大きく目を見開きました。
「お役に立てて、嬉しいわ」
微笑む汀良さんの目は、僅かに滲んでいるように見えました。
──────
僕達はすぐに旅支度を終えると、即座に宿を出ました。
「もう行っちまうんですかい?」
「行くべき場所がはっきりと決まったので」
「そうですか。何処かは知りませんが、旅の無事をお祈りしますよ」
「どうか、お気をつけて」
「ありがとうございます」
手を振る逢事真さんと、その彼に車椅子を引いてもらっている汀良さんに見送られて、僕達は帝都へ至る道を歩き出しました。
「でも、どうして逸弥さんが
「もしかしたら、私達と出会ったあとに
「……あり得ますね……」
あの威圧感を思い出して思わず身震いしていると、白咲さんは前を向きながら足を速めました。
「とにかく、帝都に行けば全て分かるはず。急ぐわよ、春君」
「はい!」
こうして僕達は、今度はちゃんとした目標を持って、帝都に向かう事となったのです。
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