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 次の日、僕達は一体の機械人形オートマタの後をつけていました。

 栄犠さんが錬成した物です。

 その機械人形オートマタは、滑らかな曲線で構成された茶色の木製の熊でした。

 背丈は十歳前後の子供くらいで、硝子玉の目がくりっとしていて可愛らしく、年頃の女の子が好きそうな見た目でした。


 女将さんによると、この熊の機械人形オートマタは元々明百合ちゃんの遊び相手に作られたものだったそうです。その役目は無くなり、今は買い出し用として機能しているようでした。

 持っている籠には、数日分の食料が入っていました。


「随分と出来が良いわね」


 熊の機械人形を見て、白咲さんは感心したように言いました。


「確かに。可愛いですよね」


「違うわよ。動きがとても滑らかなの。店の人に留め書きを見せ、持っている籠に商品を積んでもらい、お金を払う。その動作の一つ一つに全くぎこちなさが無かった。栄犠という人は、とても才能のある術師だわ」


「へえ……」


「ウィルは、私の後ろについてくる、あるいは待機みたいな命令と、音声による単純な変形命令しか刻まれていないもの。それだけでも大変だったのに、あれほどの動きをさせるために一体どれだけ複雑な術式陣を刻んだのかしら。凄く興味があるわ」


「……あの、白咲さん?」


「何?」


 少し不満そうな声で、白咲さんが振り返りました。


「僕達、栄犠さんが不死者かどうか確かめるために行くんですよね?」


「ああ。多分彼は違うわよ」


「えっ」


 固まった僕を軽く蔑むように見ると、白咲さんは再び歩き始めました。

 慌ててその後を僕も追います。


「町の人達に聞き込みをしたみたけれど、謎の失踪を遂げた人や、何の理由もなく町を出て行った人はいなかった。だから、不死者である可能性は低いわ。絶対に無い訳ではないけれど。まあ、確かめれば分かる事よ」


──────


 獣道を機械人形オートマタを目印に歩き始めてから十分は経ったでしょうか。突如開けた場所に出ました。


 そこには大きな湖に、丸太で出来た二階建ての家がありました。

 高床式で小屋と呼ぶには大きく、大体二人か三人の家族が暮らせそうな家でした。


 機械人形オートマタは玄関に通じる短い階段を上り、中へ入っていきました。

 その動作も滑らかで、中に人が入っていると聞かされても納得してしまいそうなほどでした。


 僕と白咲さんも階段を上ると、扉をノックしました。

 一分経っても返事がなく、もう一度ノックするとようやく扉が開きました。


 そこにいたのは、猫背の中年男性でした。体つきは普通で、黒髪に目の色は青緑。栄養失調や病を患っている様子はなく、いたって健全そうな人でした。


「驚いた。啄木鳥キツツキかと思えば、こんな場所を訪れる人がいるとは……。えっと、どちら様かな?」


「白咲立華。錬金術師で、旅をしています。こちらは同行人の……」


「明哉春成と言います。錬金術師を志している最中です」


「これはご丁寧にありがとうございます。私は栄犠照匠しょうぞう、しがない錬金術師です。……それで、何故こんな所に?」


 そう訊いてきた栄犠さんに、白咲さんは家の中にいる機械人形オートマタを指差しました。


「あの機械人形オートマタの素晴らしい出来に惹かれてしまって。どのような人が作ったのか興味が湧いたんです。もしよろしければ、お話を聞かせてもらえないでしょうか?」


 すると、栄犠さんは照れた様子で頬を掻きました。


「素晴らしいだなんて、そんな……。さあ、どうぞ中へお入りください。来客は滅多にないので、大したおもてなしは出来ませんが」


「いえ、突然お邪魔したのはこちらですし。それに、お土産を持ってくるのを忘れてしまいました。申し訳ございません」


「そんな、いいですよ。さ、どうぞどうぞ」


「お邪魔します」


「お邪魔します……」


 僕は内心、とても驚いていました。

 白咲さんがいつもより礼儀正しかったからです。


 後日その事について尋ねると、白咲さんは


「私は尊敬する人に対してはちゃんと敬意を払うわよ。それ以外は知らないけれど」


 と答えました。白咲さんらしい態度です。

 ……また話が逸れかけてしまいましたね。


 栄犠さんの家は、主に洋風の家具でまとめられていました。

 ですが、それらは木製の温もりある素朴な物で、判道さんのように豪奢な物ではありませんでした。


「今、お茶を淹れてきますから。座っていてください」


「ありがとうございます」


 食卓も二、三人の家族が座るのにちょうどいい大きさをしていました。

 逆に言えば、一人では大きすぎるという事です。


 家具は元の家から持ってきたそうなので、かつてはここで奥さんや明百合ちゃんと食事を共にしていたのかと思うと、少し切なくなりました。


「お待たせしました」


 そんな事を思っていると、栄犠さんがお茶を持って出てきました。


「森に生えている薬草を煎じた物です。お口に合えばいいのですが……」


「へえ……。いただきます」


「いただきます」


 そのお茶は少しほろ苦かったですが、後味はすっきりとしていました。


「美味しいです」


「それは良かった」


 白咲さんの一言に栄犠さんは柔らかに微笑みました。


「確か、機械人形オートマタの事で来たんですよね?」


「ええ。そちらも気になるんですが、実は」




「お父様?」


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