第12話 名前はアレだが美味いものは美味い

 俺は渡されるままにもごもごと食べてしまった焼きもろこしを改めて見る。

 仄かな塩味がとうもろこしの甘みを引き出しとても美味い。

 見た目はまんま地球のとうもろこしだが、これまでの例に漏れず名前は違うんだろうな。


「ぶっ?!」


 シンプルでいて飽きの来ない焼きもろこしに表示された鑑定結果に、俺は思わず吹き出した。【勇者焼き】って! 名前だけだと大判焼きとか今川焼が食べたくなるじゃないか。

 思わずズッコケたせいでルシアちゃんに心配されたが、慌てるルシアちゃんも可愛いなぁ。

 肉の串焼きの方は【ムッカ串】と出た。勇者関係ないんかーい!

 ムッカはセントゥロでも食べたが、味は日本でいう所の牛だな。実物がどんな姿かは知らないが、少し筋張っているものの普通に美味い。


「これだけでも、この辺りで胡椒や醤油が普及していないことがわかりますわね」

「それでいて食材は豊かなようです」


 ルシアちゃんとエミーリオもモグモグと食べながらオーリエンの文化について考察を続けている。

 俺にとって馴染み深いものは今のところ全部「勇者○○」という名だ。アルベルト達でも初めての料理っぽいし、文字通り勇者が調理法を広めたのだろう。


『まったく、なんでもかんでも勇者とつけおって。どれだけ目立ちたがりなんだ』

「いえ、勇者様がつけたとも限りませんよ。勇者様人気にあやかりたい商売人がつけたのかもしれません。少なくとも、以前にはなかったものばかりです」


 エミーリオが以前おっとり国王に随行してオーリエンに来た時には無かったのだと。

 まぁ、俺は美味しいものが食べれればなんだっていいや。


 続けて他のアイテムも見ていく。



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【ズッケロ】

トウキビの汁を絞り小麦粉に混ぜ焼いた菓子。砂糖にも似た甘味が人気。屋台の定番だそうですよ。


【勇者蜜】

トウキビの汁で豆を煮込んだ甘いお菓子。勇者がその作り方を広めたと言われています。ズッケロよりはやや特別な日の食べ物。


【勇者パン】

勇者が作り方を広めたお菓子。トウキビの汁を入れた甘く柔らかい蒸しパン。女性や子供に人気。


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 ほうほうほうほう。食い物は勇者関連多いな。誰かは知らんが、相当食にこだわった人物だということだけは確実だな。

 砂糖の代わりのトウキビ……トウキビってあれか。筋がいっぱいある甘い汁の出る植物。昔齧ったことあるな。

 しかし、こんな料理できる奴、クラスにいたのか。全然知らなかった……。

 孤高なる俺様は、料理などという下僕のするような行為の会話など不要だったからな! 


「砂糖は高級品ですもの。ここまで甘いお菓子が流通しているというだけでも驚きですわ」


 幸せそうに頬張りながらルシアちゃんが言う。確かにセントゥロでは甘い物は食べなかったな。


『高級品?』

「運ぶ間に溶けてしまうため、あまり流通に向かないのです。砂糖の原料となる植物はオーリエンの首都のすぐ傍で育てられるため、首都まで行けば安価で入手できますが。同じ領内であっても運ぶ手間や溶けてしまった分の補填などでどうしても高額になるのですよ」


 エミーリオが言うには、生産地から離れれば離れるほど砂糖が高額になるらしい。故に甘味はそれだけで貴族の食べ物になるのだろう。セントゥロでは王族であってもあまり口にできないのだとか。

 そういや、セントゥロで甘味って言ったら果物ばかりだったような……。う。やめよう。何故かメロンと格闘していた日々が浮かんできた。


 マフィンをもごもご食べながら、それ以外のアイテムを鑑定していく。



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【聖女の指輪】

暗黒破壊神となった英雄アミールが当時恋仲であった聖女へと贈った指輪。Def+5効果。愛がもたらした奇跡ですね。素敵です。


【慈愛のアミュレット】

丁寧に作られた木彫りのアミュレット。保有者には女神の加護により幸運が訪れると謳われていますが実際には何の効果もありません。聖女が祈りを籠めればHP自動回復の効果が出ますよ。


【支配の鎖】

身に着けた者を隷属させる効果のある首飾り。支配者:アレイ・タイラーツ


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『ルシア、触れるな!』


 不穏な単語を見つけルシアちゃんから無理矢理宝玉のついた首飾りを奪い捨てる。

 市でもらった物のほとんどは食べ物や護符など好意を感じる物であったが、これは違う。明らかに悪意を以て紛れ込まされた物だ。


「あら、リージェ様に似合うと思いましたのに……?」


 残念そうに言うルシアちゃん。そう、この首飾りは一見ルシアちゃんを狙ったもののように見えるが、ルシアちゃんが身につけるには小さい。つまり……


「リージェ様を狙っている存在がここにいるって事ですね」


 首飾りの効果を伝えるとエミーリオもルシアちゃんも顔を青褪めさせる。俺を表立って連れて行こうとすれば角が立つ。が、知らずに支配されて俺が自らルシアちゃん達から離れるのであれば話は別。

 鑑定せずに身に着けていたら、知らずにアレイ・タイラーツとかいう奴の奴隷になるところだった。冗談じゃない。


『なるべく早くここを発ったほうが良いだろう』

「ええ、皆さんお戻りになったら相談しましょう」


 そんな話をしていたらアルベルトとベルナルド先生が戻ってきた。後の三人は――ふと鼻の下を伸ばしたバルトヴィーノを思い出す――朝まで帰ってこないな、ありゃ。

 かくかくしかじかと戻ってきた二人に事情を説明。実際にベルナルド先生にもアイテムの鑑定をしてもらって、名前からしてここの領主だろうってなった。

 アミュレットはルシアちゃんに祈りを込めてもらって、指輪と共にルシアちゃんに持たせることに。そんなこんなで夜を過ごして次の日の朝。宿の食堂で朝食を摂る俺達に、目つきの悪い男が声をかけてきた。


「領主様が竜主様にお会いしたいそうで。屋敷まで一緒に来ていただけないでしょうかねぇ」

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