第8話 おぉ~、ルシアちゃんカッコイイ~!!

「クレイバー様! こ奴らがクレイバー様を追剥だなどと! 無礼討ちにして下さいませ!」


 ほう、この怠そうな声をかけて来たのが噂の面倒な奴、ことクレイバーか。どれどれ。

 ベルナルド先生の肩越しに覗こうとしたら腕で床に押し付けられた。解せぬ。


「ふん、私は慈悲深いからな。タイラーツ家が次男、クレイバーの名において命ずる。荷物を全て差し出せ。さすれば許してやろう」


 な、全てだと? それ完璧に追剥だろうが!

 アルベルトだけでなく、ドナートとバルトヴィーノも武器に手をかける。


「お待ちなさい」


 一触即発の空気の中、ルシアちゃんが止める間もなくスッ、と立ち上がった。


「従者同士の諍いであればこちらが引きましたのに。家名を出すならばわたくしも黙ってはおられませんわ」


 ルシアちゃんが御者台から奴らの前に姿を見せる。

 諍いが家同士のものに発展した今、身分を明かして伝承を味方にしたほうがいいと判断したのだろうか。

 ベルナルド先生の腕が緩み、ドナートが俺をルシアちゃんの肩に乗せる。この辺はさすが長年パーティーを組んでいただけあって、以心伝心というか、打ち合わせしていたかのような流れる動作だ。


「なっ、竜だと?!」

「女、そいつをクレイバー様に献上しろ!」

「黙れ。誰に向かって口を利いている」


 エヴァを引いていたエミーリオが、俺を差し出せと喚く小太りのおっさんを睨む。お怒りモードなのか、口調まで違う。

 アルベルトとエミーリオが二人を牽制する中、御者台からおっさんたちを見下ろすルシアちゃんへバルトヴィーノが片膝をついて短剣を差し出した。


「わたくしの名はルシア・フェーデ・セントゥロ。たかが一領主の子息に過ぎない者が、王族たるこのわたくしから何を取り上げようと言いますの?」

「なっ?! セントゥロの王女がこのような場所にいるはずがない!」

「王族を騙る者がどうなるか知っていての行為だろうな。これだけ見目が良ければ高く売れるが……その前に使い心地を試すのも良いだろうな」


 ルシアちゃんを偽物と決めつけてかかるクレイバー一行。因みに、クレイバーは趣味の悪い金きらの布を頭に巻き、金きらのアイヌ風衣装を着ていてとても目が痛い。お前はどこのピコだ。

 俺が目を逸らしたのが気に入らなかったようで今にも踊りかかってきそうである。踊るならペンとリンゴを渡してやろうか。どっちもここにはないけど。 

 奴隷に落とすなんて面と向かって言う奴らに俺の怒りもマックスなんだが、ルシアちゃんは俺の頭を優しく撫でると毅然と胸を張る。

 あ、ルシアちゃん、ダメだ。奴らルシアちゃんの立派なメロンに鼻の下伸ばしてやがる。

 

「そうですか。あくまでもわたくしを偽物と断罪して奴隷に落とすと。では、もしわたくしが本物であった場合、多額の賠償、最悪の場合セントゥロとの戦争が発生することは承知の上でしょうね。そして、そのきっかけを作ったあなた方は奴隷落ち程度では済まないことも」


 おぉ~、ルシアちゃんカッコイイ~!!

 ぐぅの音も出ないって感じの二人にルシアちゃんはチラッと短剣の鞘の紋章を見せつける。


「そ、それはセントゥロの!」

「わたくしは今、オーリエン陛下に謁見するべく首都ハレタに向かっている途中ですの。あなた方の用件は、あなた方の国王よりも優先すべきことと仰るのかしら?」


 ルシアちゃんのとどめの一言。

 国王よりも自分を優先しろと言える貴族など、どこの世界にもそうそういやしない。この世界でそれが許されるのはセントゥロにいる教皇だけだ。

 

「グッ……し、失礼しましたルシア王女。おいっ、すぐに道を開けろ!」


 わぁお、完全勝利! ルシアちゃんマジカッコイイ!

 転がるように大慌てで道を塞ぐように待機していた馬に乗った従者をどかすと、どうぞどうぞと道を通らせてくれた。



「もうこんな騒ぎは起きてほしくないもんだね」

「まったくですわ」


 馬車の中に戻ってきたルシアちゃんにドナートが声をかける。

 追ってくる気配がないことに安心して気が緩んだのか、ルシアちゃんの震えが伝わってきた。よしよし、気を張ってたんだな。俺が付いているから大丈夫だぞ。

 安心させるようにルシアちゃんの頬に頬ずりすると頭を撫でられた。解せぬ。


「どうぞ、落ち着きますよ」


 要さんがルシアちゃんにお茶を差し出した。

 って! 要さん、堂々と魔法瓶出しちゃってる!

 ベルナルド先生が湯気に食いついて要さんは時空魔法の使い手かなんて言い出しちゃったよ!


「ダメですかね?」

『ダメだな』

「ダメだろ」


 俺と1号からの同時のダメだしにシュンとなっている要さん。

 まぁ、本当だったらこの世界にない技術を持ち込むなって言う所だけど、今回に関してはルシアちゃんが暖かいお茶を飲んで落ち着いたから良いや。


「せめて、次の集落ではまともに休めると良いけどな」


 バルトヴィーノよ、人はそれをフラグと呼ぶのだ。

 まぁ、あれだけ脅せばあの金メッキ野郎が直接何かしてくることはないだろうが。先が思いやられる。


「わたくしったら、既に廃位をしているというのに家の名前を出してしまいましたわ」

「大丈夫だろうよ。陛下もああいう馬鹿対策であの剣を預けたのだろうから」

「いえ、王族と名乗るのは悪手でしたね……」


 落ち込むルシアちゃんを慰めようとしたのか、楽観的なことを言うバルトヴィーノ。

 奴らを黙らせたあの短剣はおっとり国王が王家の権威を使えるようにと持たせたもの。王女ではなくなったルシアちゃんは、セントゥロ国の正式な使者であると名乗るのが正解だったのだとベルナルド先生が教えてくれた。

 あの馬鹿二人が騙されてくれたから良いものの、それこそ王族を騙った罪人とされてもおかしくない状況だったらしい。

 ルシアちゃんがまたプルプルと涙目になって震えだしてしまったので俺は無理矢理話題を変える。

 


『そういや、皆はさっきの店で何を買ってきたんだ?』

「ああ、食堂ではテイクアウトできる軽食を人数分頼んだ。それと、あの村の特産品を少し融通してもらった」


 おお、それは楽しみだ!

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