第4話 生きてる? 大丈夫?

 夜が明け、テキパキと片付けるとノルドに向けて出発した。

 今日はいつもより急ぎ足だ。4号が中継してくれているから、ルシアちゃん達を待ったりはしない。


「急いでくれ」

「わかってます。しっかり掴まっていてくださいよ」

『頼む、反応してくれ――……』


 マジィアで召喚された勇者が実は二人で、一人生き延びていた。江間の話では他にはいないと言っていたから、残り3か所で33人。

 ノルドの勇者は召喚に失敗して死んだという話だが、江間の例もあるしどこかで生き延びているかもしれない。

 アッファーリ並みに女神信仰の強い国と聞くから、江間よりも酷い目に遭っているかもしれない。そう考えると自然とエヴァを急かしてしまうのだった。

 俺も先ほどからずっと索敵スキルを駆使して周囲を探っているが、その名の通り俺達に敵意を持つもの――モンスターしか反応がない。肝心な時に、なんて使えない。


『ところで1号。江間の様子、わかるか?』

「ん? ……ああ。家に帰したよ。今大騒ぎになってる」


 江間は昨夜のうちに部屋に送り届けられ、それからすぐ両親と再会を喜びあっていたらしい。

 衰弱が激しいためしばらく病院で静養が必要だそうだ。回復魔法かけてやるのを忘れてたな。どうやら俺もテンパっていたようだ。


 江間は1号に言われた通り、何も覚えていないと言い続けているらしい。

 今江間の家の前と江間の入院している病院の前はパトカーやマスコミが入り乱れて大混乱だそうだ。

 まぁ、半年間失踪していた娘がいつの間にか自室に戻っていたら騒ぎになるよな。

 世間では「現代の神隠し」だのとカルト系がネットでお祭り騒ぎしているみたいでプライバシーもへったくれもないって1号が舌打ちしていた。



『……両親と会えたか。良かった』

「帰りたいのか?」

『いや……俺様の生きる世界はもうこちら側だけだ』


 帰ったら蜥蜴になっちまうんだろ? なら戻っても仕方ない。

 ドラゴンも蜥蜴もそう変わらないとかうそぶく1号は取り敢えず殴っておくとして。


『エミーリオ、俺様達は今後も勇者を元の世界に戻してやりたいと思う』

「えっ!? ですが、暗黒破壊神はどうするので?」

『なんだ? 貴様が勇者となって倒すのではなかったのか?』

「いえ、それは、自分が幼い頃の夢で……」


 これまで戦いに身を置いた事がない平和ボケした日本人勇者より、騎士として戦闘訓練を受けてきたエミーリオの方が絶対に強い。

 そう伝えたらエミーリオが鼻の穴を膨らませ満面の笑みで「はいっ! 勿論です!」と答える。


「あ、ですがレベル制限は……」


 そう。こちらの人間のレベルには上限がある。

 異世界からきた者だけがその上限を超えられると言われている。本当かどうかは知らないが。


『大丈夫だ。暗黒破壊神は勇者がいなくても倒せる』


 俺は暗黒破壊神の欠片を埋められたモンスターが暗黒破壊神の分身体であり、それを倒していけば暗黒破壊神は弱体化するという推測をエミーリオに話す。


「俺みたいなものか」


 そう。きのこの分身体がレベルアップすればきのこ本体のレベルが上がることがわかっている。

 同じように、欠片を埋められたあの黒モンスターがそのまま暗黒破壊神を強化させるための存在である可能性は高い。

 推測というか確信に近いのは、俺が欠片を取り込むたびにステータスが強化されるからだ。



『まぁ、何にしろ江間が無事帰れて良かった……ん? どうしたエヴァ?』


 ブルルル、と顔を振るエヴァ。何か凄く機嫌が悪そう……。

 いや、何となく原因はわかる。


『エヴァ、貴様さては、江間とエヴァを聞き違えているな』


 そう、俺やエミーリオ、1号の口からその名が出る度に耳がピクリとこちらを向くのだ。

 自分について何か話している、なのに構ってくれないと嫉妬をしているのに違いない。


『なんとなんと、愛い奴め! うりうりうり……ぎゃっ!』


 馬は賢いというが、江間に嫉妬するとか可愛いなぁ、と頭に上って撫でてやったら地面にベシッと叩き落とされた。その上カプリと翼を噛まれそのまま運ばれていく。

 痛い。くそっ、ちょっと懐いたと思ったらこれだよ!


「放してやってくれ、エヴァ。休憩にしよう」


 エミーリオの言葉には素直に従うんだよこいつ。な、泣いてなんかいないんだからなっ! ぐすん。

 日本で警察の事情聴取やら保護者への説明やらマスコミの対応やらで相当ストレスが溜まっているのか、1号がそこまで笑うか? という勢いで笑い転げている。

 エヴァの背中をバシバシ叩いてゲラゲラ笑ってお腹を抱えて仰向けになり、そのまま落下した。あほだ。


 可哀想だし笑わせておいてやろう――


「などと言うと思ったか!」

「痛い痛い痛い! ギャー?!」


 1号の頭にミチミチと爪を立てると、きのこそのままの柔らかさで縦に裂けてしまった。

 や、やりすぎたか? 生きてる? 大丈夫?

 心配する俺を前に、見る見る裂けた部分が盛り上がりくっつき――


「「「「ふははは、痛いなんて嘘だ!」」」」

『おい、プラナリアみたくなってんぞ』


 裂けた全部が頭部になるという見るもおぞましい生物が誕生した!

 え、こんなのをずっと連れて歩かなきゃいけないの……?

 チラッとエミーリオを見ると目を逸らされた。続けてエヴァを見ると歯を剥きだされた。や、やっぱり可愛くない……。


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