第11話 ふむ、どうやらここはまともな教会のようだ

『おお、ここがアッファーリか』


 見た目はセントゥロの商業都市とほとんど変わらないな。


「それはそうですよ。ここも貿易によって栄えている商業国家ですからね」

「オチデンは商業国家なのか」


 ふむふむと何やら頷きながらメモを取るちびきのこに、エミーリオがオチデン連合国を構成する各国について説明している。


『そんなことより、あまり顔を出すな』

「大丈夫! 俺はただのマスコットのふりをしているから」

「大丈夫ですよ。誰が見ても食料が鞄から飛び出しているようにしか見えませんから」



 ちびきのこが仲間に加わってから早一日。俺達はアッファーリへと入国していた。

 こんな感じで和気あいあいと進んでいたが、関所が近づきちびきのこは鞄に突っ込んだ。

 手足が生えてるの見つかったらモンスターだと思われちまうからな。



「それより、例の勇者のこと聞いて回りましょう」

『それなら、教会に先に行った方が良いのではないか?』


 エミーリオは目的に向かって突っ走るタイプと見た。仮にも騎士団長がこんなんで大丈夫だったのだろうか? きっと、部下が苦労したんだろうなぁ……。

 エミーリオの方が竜生を足しても15歳の俺より年上のはずなのだが、俺の方が大人な気がするのは何故だろうか。


「はいっ!……すみません、教会はどちらですか?」


 俺の言葉に元気よく返事したエミーリオが、さっそくすれ違いざまの男性を捕まえて道を尋ねる。

 今俺達が歩いているのはアッファーリのメインストリートだと思われる、セントゥロ側の門から一直線に伸びる広い道路。

 道は石畳になっており、時折樽や布をいっぱいに乗せた荷車が通る。道幅は広く、両側には様々な店が立ち並び、その手前に露店がどこまでも並んでいる。

 見渡す限り人人人で歩きづらそうったらないね。まぁ、俺はドラゴンだしエミーリオの頭の上にいるから関係ないが。


 教会は、そのメインストリートを左に逸れていかにもな住宅街を入った先にあった。

 外観はこじんまりとした木製の建物。それに翼の形のようなエンブレムが飾られている。



「すみません、どなたかいらっしゃいますか?」

「はいはい、どうされましたか?」


 木製のドアを開いて呼びかけるエミーリオの声に、おっとりとした声が返ってきた。

 中に入るとそこは礼拝堂になっており、中で祈りを捧げていたらしい人々がその体勢のまま何事かとこちらを振り返って見ている。

 ふむ、どうやらここはまともな教会のようだ。


 古びているが手入れの行き届いた机と椅子、礼拝台。壁面や天井に至るまで飾り気のない木製で、壁には等間隔に燭台が設置されている。夜はなかなか雰囲気がありそうだ。

 声の主らしい修道服姿の老人が近寄ってくる。セントゥロで見たような金きらのではなく、白を基調として袖口に金色の縫い取りがあり、胸元に金糸で小さく翼が刺繍してある。


『マジィアが召喚した勇者について詳しく話を聞きたいのだ』

「勇者様、ですか……それはまたどうして……」

「あの、暗黒破壊神に襲われ亡くなったというのは本当ですか?」

『エミーリオ。俺様が聞いている。黙っていろ』

「はっ、申し訳ありません、聖竜様」



 俺を頭に乗せたエミーリオを不審げに見ていた老人だったが、聖竜、という単語に目を見開いて俺に向き合う。


「聖竜様、失礼致しました。どうぞ中へ」

『うむ』


 老人は女神像のある礼拝台を回り込むと、奥の扉へと案内した。

 椅子が三脚でいっぱいになってしまう小さな丸テーブルしかない簡素な部屋。通されると同時に本題を切り出された。


「勇者様のお話をする前に、あなたが真実聖竜様である証を見せていただきたい」


 証? そんなもん何もねぇぞ……?

 ステータスを見てもらえれば仮とはいえ称号があるから信じてもらえるのだろうが、わざわざ聞いてくるということは老人は鑑定系のスキルを持っていないようだ。


 ふむ……救護院で聖竜と呼ばれる原因となった回復魔法でも使ってみるか?

 どこか悪そうには見えないが、ご年配ならきっとあちこち悪くなってるだろ。よし。


「反転せよ」


 イメージとしては若返りだな。ついでに足腰痛いとこ全部良くなぁれ。

 あんまり若返らせすぎても困るだろうから、10年くらい。……おぉ? 何か急に体が重怠くなった。


「これは聖光、それに治癒魔法……っ!? ……大変、失礼しました聖竜様」

『良い、おもてを上げよ』

「おぉ、さすが聖竜様です!」


 老人は皺のなくなった手にまず驚き、体を左右に捻り動きを確かめた後、机に顔をぶつける勢いで頭を下げた。

 うん、10年くらいのイメージだったけど少しやりすぎたようだな。お肌ピッチピチになってる。どう見ても40~50歳くらいのおっちゃんにしか見えないぞ。

 そんな老人を見て、エミーリオもキラキラした目を俺に向けてくるし。


 取り敢えず、推測通り回復魔法が聖竜の証ってことで良かったみたい。

 セントゥロでもそうだったけど、そもそも何で回復魔法使っただけで俺が聖竜ってことになるの?

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