第10話 きのこ、恐ろしい子っ!
話し込んでいる間に日が完全に落ちた。
今日は満月らしく、二つの大きな月が出ている。
「さてと。そろそろ奥さんが迎えに来る頃だな」
『本当に帰るのか』
「当然だろ」
日本時間で今日は日曜日らしく、次に来るのは六日後だという。
「ここ、印を打ったところが開墾した村だ。ちょっと保護した現地の黒髪が何人か住んでるけど、悪さはしないから気にしないでくれ」
『俺達もここを拠点とすればいいのか?』
拠点として使うかどうかは任せるとのこと。
見つけたクラスメイト達をその村に連れていけばそれだけで良いそうだ。それが一番難しいんだがな。
設備は自由に使っても良いが日本から持ってきた物に関しては村から持ち出さないようにと釘を刺された。
村をこちらの世界の人間に発見されては焼き討ちに遭う可能性もあるらしい。黒髪ってだけで処分することを考えれば十分あり得る。
『協力する代わりに、こちらも条件がある』
「条件?」
『暗黒破壊神、それとその分身たる黒モンスターの居場所を探ってくれ』
きのこがわざとらしく無い顎をさすってふむ、と呟く。
そしてまたばふばふと胞子を飛ばす。わらわらと生え出た小さなきのこ達はピッとマスコットのような腕で敬礼ポーズを取ると森の奥へと散っていった。
「連絡用に1匹ちび俺を連れて行け。そのサイズなら隠れて街にも入れるだろうし、どこにいても合流できる」
『こいつをか?』
「よろしくな!」
渡された小さいきのこを摘まみ上げると、ピッと腕を上げて挨拶する。
これ、連れていくのか……。
「てれれれってれー♪ ちび俺が仲間になった」
『やかましいわ』
ちびきのこの言い方が何かむかついたので物理的に黙らせてやった。
小さくてもきのこはきのこ。うざさは本体と変わらない。
「楓、もういいかしら?」
「ルナ! 悪い、待たせた」
いつの間にか、綺麗な女性がすぐ傍に立っていた。
透き通る白い肌の美女が、月の光のように柔らかな金髪をなびかせきのこを抱きしめる。
きのこのくせに何故こんな美人な奥さんが……くそう、爆ぜろ。
エミーリオにすら気配を感じさせない女性とハグしたまま、きのこは消えていった。
異世界旅行のスキルと言ったか。一体何者なんだろう?
まぁ、敵に回らないならそれでいいか。
「聖竜様……転生者とは皆、尋常ならざる力をお持ちなのですね」
『いや、一緒にされてもな……』
俺ドラゴンだし。
この世界の生物に転生したからスキルとかあるんじゃねぇの?
『ところで、貴様は戦力に数えられるのか?』
「貴様じゃなくて先生な」
『本体じゃないだろ。貴様で十分だちびきのこ』
俺の台詞にぐぅ、と呻いてそれ以上先生呼びを強要してこなくなった。よし、俺の勝ち。
「こんなプリティーなきのこを捕まえて戦わせようだなんて、鬼畜か? 戦力にならないに決まってんだろ」
『威張るな』
「だが、野営の見張り番くらいならできるぜ。叩き起こせばいいんだろ?『おい、モ』」
『やめろ』
渋かっこいい声色であの言葉を言おうとしたちびきのこを再び物理的に黙らせる。
陥没した顔面がすぽんっと元に戻る様が面白くて何度もプチプチしてしまったら腕を振り上げて怒り背中の方に行ってしまった。こそばゆい。
そのまま俺の背面をうろつき頭の上によじ登ったきのこはそこを定位置と定めたようだ。首を振っても何してもしがみ付いて降りようとしない。よし、後でアクロバット飛行してやろう。
『で、貴様は結局何ができるのだ?』
もう顔面陥没させないから下りてこい、と告げたら対面に来た。
異世界旅行は奥さんのスキルだと言っていた。じゃあ、きのこは? ちびも増殖できるのか?
ちょっと鑑定。
ーーーーーーーーーーーーーーーーーー
【カエデ・キノシタ】(分身体)
レベル : 1
HP : 5/ 20
MP : 10/ 50
――ステータスの取得に失敗しました――
ーーーーーーーーーーーーーーーーーー
うわ。弱つ!
しかも俺が突きすぎたのか、瀕死だった。……すまん……。
「分身体の俺にできることは、感覚共有による他の分体・本体との情報共有。それからさっきみたいに自分の怪我を直すくらいかな?」
『意外と有能……』
「先生だからな」
いや、それ関係ないよね?
『レベルとステータスはあるようだし、レベリングしてみるか』
「えっ? マジで? モンスターと戦うとか無理無理」
無理無理無理無理無理無理無理無理と叫ぶちびきのこの顔面をまためこっと陥没させて黙らせた。
ちびきのこをレベリングさせたら本体や他の分体もレベルアップするのか確かめたいし、本人が嫌がっても無理矢理戦闘に参加させる所存。もしオーバーキルされてもまた本体から出してもらえば良いんだしな。
そうと決まれば早速。
「血飛沫と共に踊れ!」
俺はちょうどいいタイミングで上空を飛び去ろうとした蝙蝠型のモンスターに斬撃を飛ばす。
目の前に落ちてきた蝙蝠はバタバタともがいていた。一見普通の蝙蝠なのだが、牙が凄く大きく、翼と後肢には鋭い爪が。そして何より俺とそんなに変りないくらいでかい。
『さぁ、ちびききのこ、止めをさすのだ』
エミーリオの解体用サバイバルナイフを持たせてやる。自分の体長より巨大なナイフを持たされ、ふらつきながら「いぃぃぃぃやぁぁぁぁあ」などど叫んでいたが、その刃はしっかりと蝙蝠の喉元に突き刺さっていた。
きのこ、恐ろしい子っ!
『――経験値157を入手しました』
お、俺にも経験値入った。
ちびきのこも無事レベルが上がったようだ。
この調子できのこを育てよう。立派なきのこになるのだぞ。
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