第8話 くそ、鶏のくせに勝ち誇った顔しやがって!

 王城を越えて更に北上すると、眩い光と共に轟音が聞こえてくる。

 爆撃のような音だ。

 力を込めて加速する。

 ようやく、全容が見えた。



 鶏だ。巨大な、真っ黒い鶏。

 ダンジョンの中で戦った巨大な爆発鶏ブンパ・ポーロよりも更に巨大で。戦っている人たちが豆粒のようだ。

 いや、実際豆粒を啄むかのように人が千切って喰われ千切って喰われしている。


 防壁の上から鶏に矢を射かける人が見える。

 放たれた矢は、こちらに向かって放たれた鶏の羽に当たり爆散した。

 続けざまに飛んできた鶏の羽が防壁に突き刺さり、爆発。

 見るとあちこち崩れたり燃えたりしていた。



「ヒッ! ド、ドラゴン?!」

「冗談じゃない! こんな状況でドラゴンまで来るなんて!」

「反転せよ」



 俺の姿に恐慌状態に陥る群衆に回復魔法をかけつつふわり、と防壁の上に降り立つ。

 まだレベル2だからそこまで効果はないだろうが、怪我は身体強化に、恐慌状態は高揚状態にと反転するようイメージ。

 多少は効果があったようで、俺の降り立った周囲にいた人達から怯えた様子はなくなった。



『安心せよ。敵ではない』


 暗黒破壊神にも美学はあるのだよ! 強者を前に弱者をいたぶるような真似はしないのさ。

 敵意はないことを伝えるために言ったのだが、それを聞いた人たちから口々に「聖竜様だ」という声が上がった。

 その声に段々と効果の範囲外にいた恐慌状態だった人々が落ち着きを取り戻していく。


 ここでも「聖竜」……。

 うん、まぁ、良いけどさ。鶏と戦ってるところに攻撃してくるんじゃなきゃ。

 さて、鶏はというと。こちらからの攻撃の手が止んだ隙にだいぶ迫ってきていた。


「全てを見通す神の眼!」



ーーーーーーーーーーーーーーーーーー


【ネロ・ブンパ・ポーロ】


HP   : 30015/ 376410

MP   : 87/ 1192


暗黒破壊神の欠片を植えられたことで各段に強化されたブンパ・ポーロ。

極めて攻撃的。テリトリー意識が無く、食料を求めてあちこち放浪する。

起爆しやすい成分を含む羽を爆弾として使う。火気厳禁。鋭い嘴にも注意が必要。


ーーーーーーーーーーーーーーーーーー




「生命力37万!?」


 おいおい、どんだけ強化されてんだよ!

 あ、でもMPは大したことない。俺と大差ないし、生命力特化ってやつかな。


 その生命力も街の人達が頑張ってくれたみたいで10分の1以下に減っている。MPの減り方が著しいことを見るに、羽を飛ばすか爆発させるのにMPが必要と見た。

 なら、MP切れを誘ってみるか?



「血飛沫と共に踊れ!」


 俺は鶏の顔面目掛けて斬撃を飛ばす。


「クケエェェェェッ」

「黙れ、焼き鳥が!」



 鶏が怒りで注意を俺に向ける。

 そこに飛んでくる羽。俺は空に飛んで避けたが、爆風で上空に打ち上げられる。

 見下ろすと、防壁が崩れていた。す、すまん。


 何人か巻き添えになってしまったかもしれない。

 俺は慌てて上空を旋回すると、鶏の注意を引き付けながら街から離れる。



「悔しかったら飛んでみせよ、空も飛べぬ退化者が俺様に届くものか!」


 ふはははは! と挑発してみるが、遠距離攻撃であるブレスは使えない。

 つまり俺もここからじゃ攻撃ができない。

 ……って、えぇぇぇぇぇぇぇ?! 鶏、飛んだよ!? 鶏って飛ぶの?!


 怒り狂った顔でバッサバッサ空を飛んで追いかけてくる。怖い。

 何だよ! 鶏だろ!? コケコケ言いながら地面突いてろよ!



「うぉっ! あっぶねぇ!」


 なかなか追いつけないことに業を煮やしたのか、羽を飛ばしてきた。

 うまく避けたつもりが、真横で突然爆発する。その爆風で落ちた先にまた羽が。


「いってぇぇぇぇぇ!」


 地面に落ちた俺の目の前に、ズシン、と地響きを立てて鶏が着地した。

 くそ、鶏のくせに勝ち誇った顔しやがって。


「全てを見通す神の眼!」



ーーーーーーーーーーーーーーーーーー


【ネロ・ブンパ・ポーロ】


HP   : 30015/ 376410

MP   : 10/ 1192


ーーーーーーーーーーーーーーーーーー


 よしっ、MP削った! スキル使えてもあと1回くらいだろう。



「うぉっ! 危なっ!」


 嫌な予感がして横に転がると、先ほどまで俺が落ちていた地点に鶏の嘴がめり込んだ。

 そのまま二撃三撃と追撃がくるのを、ゴロゴロと転がり避ける。


 かなり遠くに街の明かりが見える。

 ここで俺の悪い癖がムクムクと顔を出した。



「ブレス使ったらどうなるかな?」


 ダンジョンと違って密室じゃないし。街からかなり離れたし。人の気配近くにないし。

 念のため距離をとって、と。

 俺は全力で上空へ飛び上がる。そして、追いかけようとしてきた鶏に急旋回して向き合う。



「我が劫火に焼かれよ」


 直後に襲ったのは、目も開けられないほどの光。そして、鼓膜を揺るがす衝撃。

 体の自由が利かない。錐揉み状態で、上下左右も分からない。

 そして、しばらくの浮遊感の後に全身を強打する衝撃が襲い。


 何か声を聴いたような気もするが、聞き取れないまま俺の意識は途切れた。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る