第12話 労働の後のお肉最高です!

 見渡す限りを更地にしたところで俺のMPが尽きた。


『――≪リージェ≫がロクスタを倒しました。経験値1,804を入手しました――』


 害虫キラーの称号効果もあってか、1匹1匹は弱かった。

 しかし、数が多かったからか、経験値をだいぶ稼げたようだ。

 


「片付いたな」


 アルベルトの言葉通り、目に見える範囲には細切れになったススキが散らばるだけである。ギチギチ言っていたイナゴもシャラシャラと光の粒子になり消えてしまった。ドロップアイテムはルシアちゃんの目玉くらいの小さな魔石。

 この広範囲を拾っていくのは大変なので放置するらしい。大きさも大したことないしね。



「ぷっはぁ! この一杯のために生きてるぜ!」


 といつの間にか酒を呷っていたバルトヴィーノが焼き鳥に手を伸ばす。

 あっという間に肉が消えていくので俺も慌てて食べる。労働の後のお肉最高です!

 食べ足りなくてバルトヴィーノの手元のつまみをじっと見てたら、ルシアちゃんがスープをくれた。これも美味い。ルシアちゃんは良いお嫁さんになれると思うよ。



「明日の行動なんだが」


 食事も一通り落ち着いた頃、アルベルトが切り出した。

 食料の残りがあと1日分。今のペースだとダンジョンを抜けるのにあと2日。王都までは更に2日かかるとのこと。食料はともかく、水が無いのはヤバい。


「今日の目標にしていた30階層が森林フィールドだ」


 薬草や果実が豊富な上、猛獣型のモンスターもいるらしい。川も流れているから水も補給できる。それで野営地として目指していたのか。

 アルベルトが30階層でもう1泊して明日一日を物資補給に充てることを提案した。ルシアちゃんが急ぎたそうな顔をしていたが、水も食料もなければ行き倒れになることを解っているらしく。反対する者は誰もいなかった。







 一晩寝たら、HPもMPも全回復していた。

 鶏肉と堅パンをトロトロになるまで煮込んだパン粥で朝食を済ませる。

 見た目に反し不味くはないが、正直そろそろ米が食いたい。


 

 食後一階層上がると聞いていた通り森林のフィールド型階層に出た。

 アルベルトの先導で辿り着いた川の畔にキャンプを張ると、二人一組になって探索を開始。

 俺はもちろんルシアちゃんと一緒。ルシアちゃんは荷物をキャンプ地に置き、空にした背嚢と鉈を装備している。



「何だか、二人きりは久しぶりですねえ」


 嬉しそうにルシアちゃんが笑う。

 確かに、たった二日前までは二人きりだったはずなのに何日も経っている感じがする。

 

『そうだな』

「! リージェ様! 言葉が!」


 ルシアちゃんが一瞬硬直して鉈を取り落とす。口元を覆ったかと思うと、俺を抱きしめて喜んだ。そういや、念話を取得してだいぶ経つけどルシアちゃんと話してなかったっけ? 

 聖竜と心通わせるのが聖女だと言っていたし、意思疎通できているとは言え会話にならないのをずっと気にしていたのかもしれない。



 抱っこされるがままに進むと植生が変わり、竹林が見えてきた。こっちの世界にも竹あるんだなぁ、と懐かしい気持ちになる。


『ルシア、あそこへ行こう』

「え? あそこはバンブー林ですよ? 食べ物になりそうなものなど……」


 竹はまんまバンブーなんかい。思わぬ地球との共通点。

 常識が違うと困るので一応鑑定。



ーーーーーーーーーーーーーーーーーー


【バンブー】


天高く成長する植物。葉はお茶の原料にもるほか、殺菌効果もあるため薬の原料にもなる。中は空洞で日用品の材料に使われる。地面から突き出したばかりの頃は柔らかく食べられる。花を咲かせるのは百年に一度。繊維質に油分を含むため松明にも使われる。


ーーーーーーーーーーーーーーーーーー




 よし、俺の知っている竹そのものだな。

 戸惑うルシアちゃんの腕から離れて竹林に入る。狙いは勿論筍。

 季節がわからないから心配だったけど、そこは異世界だからなのかここがダンジョンだからなのか、すぐにあちこちから顔を出す筍を見つけられた。


『食べてみろ』


 俺は掘り出した筍の皮を剥いて二つに割り、一つを自分で食べて見せながらルシアちゃんに渡す。

 堀りたては生でいけるのだ。すぐにアクが出てしまうので掘った奴だけの特権だな。わさび醤油が欲しいがそこは我慢。


「! 柔らかい?」


 恐る恐る口に入れたルシアちゃんが驚きに目を見開く。

 俺は筍と呼ばれる若木は食べれること、掘ってすぐに調理すればアク抜きが必要ないこと、調理法などをルシアちゃんに教えた。

 これで今夜は筍が食べれるな。


「あの……リージェ様はいったい何故バンブーの食べ方をご存知なのでしょうか?」


 しまった!

 そうだよ、俺、まだ生まれて2ヶ月、それも最下層から出たことがないんじゃん。ルシアちゃんが不審がるのも無理はない。



『…………実は、俺様には前世の記憶があるのだ』


 俺は腹を括った。

 気味悪がられたらそれでもいい。所詮俺とルシアちゃんは暗黒破壊神と聖女。決して相容れない関係なのだ。


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