少年期[1002]そんなに離れられない
「ゼルート、明日には出発だったか?」
「うん、そうだね」
「それじゃあ、父さんと一緒に一杯呑まないか」
翌日には再び実家を出て冒険に……今回は国外へ向かうゼルート。
そんな息子に、一杯呑まないかと誘うガレン。
「良いけど……俺、ワインの味なんて解らないよ」
「構わん。寧ろ、どんどん呑んでいかないと、味が解るようにはならないぞ」
「ふふ、それもそうだね」
二人は執務室へと移動し、ガレンは赤ワインの栓を開け、グラスになみなみと注いでいく。
「「乾杯」」
グラスを合わせ、エールの様に飲み干すかの如く喉に流し込むのではなく、適量だけ口に含み、その味を楽しむ。
とはいえ、やはり先程口にした通り、まだまだゼルートにはワインの良し悪しなど解らない。
ただ……思っていた以上に呑みやすいと感じた。
「……もっとこう、辛いというか、子供舌の俺にはそう感じるかと思ってたけど、なんだか呑みやすい味ですね」
「そういう物を用意したからな…………次は、パルブン王国に行くんだったな」
「はい」
多くの冒険者は、基本的に国外へ行くことなくその冒険者人生を終える。
諸々の理由はあるが、主な理由は自国を全て冒険できるほどの体力、移動力を持っていないから。
ゼルートの場合、まだ自国の全てを冒険し終えてはいない。
以前まで探索していたダンジョン、ホーリーパレスの最下層まで探索したいという目標もある。
だが……ゼルートの実力などを踏まえると、冒険と言える冒険が出来る場所がそこまで多くなかった。
「あの杖を探しに、か…………ふっふっふ、また随分と大冒険に挑むな」
「本当にあるのかは分かりませんけど、そういうのも探して、確かめに行くのも良いかと思って」
「そうだな。それもまた冒険だ……度合いで言えば、お前たちがこの前海中にあるダンジョンに挑んだ時と同じぐらいか?」
冒険者時代に海中での戦闘経験はあるものの、海中ダンジョンには一度も挑んだことがないガレン。
ただ、未知のダンジョン……しかも、階層数が四十層レベルのダンジョンとなれば、並みの冒険ではない。
「どう……なんだろう。そういえば、物凄い今更な話ではあるけど、確かに結構な冒険だったかな」
「未知の四十階層もあるダンジョンを探索したんだ。大冒険なのは間違いないぞ」
ガレンの言う通りなのだが、ゼルートは海に生息しているモンスターの味に興味津々状態。
あの魚系モンスターの刺身を使えば、どんな美味い海鮮丼になるのかと……そんな考えが頭の大半を占めていたため、非常にリスクのデカい冒険を行っているという考えはなかった。
「父さんも、今度行ってみる?」
「……はっはっは!! そうだな、行けるな行ってみたいが……本当に探索して、冒険するとなれば、少なくとも数日はここから離れなければならないだろ」
「そうだね。全部で四十階層あるから……三十階層まで探索するとしても、七日……十日ぐらいほしいかな」
「そうなってしまうだろ。さすがにそれはな……俺はもう、冒険者ではない。それだけの日数を、基本的に私情で離れるのは無理だ」
ラルの背に乗って全力で移動すれば、その日のうちに目的地に到着するのも難しくはない。
ただ、ダンジョンを探索するとなれば、たった数日で終わらない。
ゼルートたちが発見した海中ダンジョンを楽しむとなれば、まずガレン海中での戦闘を思い出すのに数分ほど必要になってしまう。
「父さんはもう男爵に……今は伯爵だったな。とにかく、昔の様に冒険することも、無茶をすることも出来ない」
先日は随分と戦争で暴れたじゃないかと誰かがツッコむかもしれないが、それは貴族としての義務であった。
「だから、ゼルート……お前は家のことを気にせず、存分に冒険を楽しんでこい」
「父さん…………ありがとう」
ガレンはゼルートの事だけではなく、しっかりとクライレットの事を考えている。
その為、後十年は当主として活動し続けると決めていた。
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