兄の物語[132]ようやく納得
手元から木製のロングソードが離れてしまった。
しかし、それでもダンは一切諦めることなく、クライレットがチェックメイトだと……剣先を急所に突き付けるよりも先に両拳が動いた。
(思ってた、以上に、上手いね!!!)
ダンはクライレットが離れようとすれば、即座に距離を詰める。
時おり剣先が掠り、小さな切傷が生まれるも、ダメージ量を考えれば何も問題無かった。
(離れれば、終わりだ!!!!)
互いに約束した訳ではないが、それでも魔力やスキルは使わない。
それでも……巻き飛ばされたロングソードを拾う余裕はなく、距離を取られればリーチが長いクライレットが絶対的な有利を獲得し、的にされてしまう。
だからこそ、ダンはただやみくもに拳を突き出すのではなく、重傷になりそうな突きを食わらず、離されないように
する。
それを主に意識しながら動き続け、要所要所で拳を振るう。
(このままだと……先に、細剣の方に、限界が、きそうだね)
二人が使用していた木製の武器は、二人の剣戟に耐えられる耐久性を持っていた。
ただ、避けられないダンの拳を細剣の側面で防いでいるうちに、徐々に徐々に……ミシミシという嫌な音が聞こえ始めた。
互いに約束はしてない。
それでも、クライレットもダンと同じく、今更スキルや魔力を使おうとは思わない。
寧ろ……使ったら負けだと思っていた。
「フンッ!!!!」
そして遂に、ダンの拳が木製の細剣を破壊した。
だが、次の瞬間……ダンの太ももに、鋭い痛みが走った。
「シッ!! ハッ!!!!」
クライレットはおそらくこの攻撃を防げば、木製の細剣が破壊されることを予想していた。
得物が壊れる……その準備が出来ていたからこそ、直ぐに手放し……左足で鋭い蹴りを叩き込むことが出来た。
「ぐっ!! っ!?」
ダンも、木製の細剣を破壊しただけで、勝負が終わるとは思っていなかった。
それでも、クライレットの武器を破壊する……自分と同じ土俵に引きずり込むという考えは、一つの目的となってしまい、それを実行できた達成感から、僅かに気が緩んでしまった。
その結果食らってしまった太ももへの蹴り……その一撃はダンの肉を思いっきり破壊し、骨を砕くことはなかった。
ただ……明らかに効かされてしまった。
上手くフットワークが使えない状況に追い込まる。
クライレットはそれを知ってか知らずか、蹴りを放つのは最初の一撃だけ。
それ以降は両拳を主に使って攻めるが……フットワークが一時的に効かなくなったダンは直ぐに追い詰められ……気付いた時には顎に強烈な痛みを感じ、急に視界が高速で移動した。
(っ!!?? どうして……体が、動かねぇんだ?)
その理由に気付く前に、両膝が地面に付き、そのまま地面へと倒れた。
「二人共、そこまで。勝者はクライレット、で良いわよね」
「…………ッ、あぁ。そうだな」
ズキっと再度顎に痛みを感じ、自分がアッパーを食らい、何度も体験したことがある脳の揺れで崩れ、倒れたのだと事態を把握。
「大丈夫か」
「大丈夫、だ」
クライレットはまだ脳が揺れてるであろうダンに手を差し出すが、ダンはその手を取らず、なんとか自力で立ち上がった。
「ふぅーーーーー……強いな」
「ダン君こそ、本当に強かったよ」
「そうか…………ありがとう」
嫌味ではなく、挑発でもない。
純粋な賞賛を……ダンは苦笑いしながら受け取った。
「………………姉さんを、これから、頼む」
「うん。頼まれた」
「……一つ、聞きたいんだが、良いか」
「? 大丈夫だよ」
ダンは少し気恥ずかしさを見せながらも、意を決したように口を開いた。
「あのさ、ゼルートの奴は……戦って、戦ってばっかの日々を、送ってたのか」
「ん~~~……そうだね。気付いた時には木製の剣を振ったりしてて、モンスターと戦って……偶に錬金術とかで遊んでたかな? とにかくそんな生活を繰り返してたね」
「そうか…………教えてくれて、ありがと」
「? どういたしまして」
戦って戦って戦って……ダンは、自分が努力してなかったとは思わない。
それでも、あのゼルートが行っていた訓練とは、おそらく訳が違い過ぎると……この時、素直に受け入れられた。
強さこそ正義という思考を持っているというわけではないが、ただ……自分とは積み重ねてきた厚みが違い過ぎる。
だから、あんな強さを持っているのだと……心の底から納得することが出来た。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます