兄の物語[59]超爆睡

「こちらがお会計金額になります」


「……やっぱり結構食べたね」


良い店で食べたというのもあるが、それにしても……と思える量を食べた自覚がある四人。


それでも決して払えない金額ではない。

寧ろ本日の儲けを考えれば、懐が痛んだとも思わない。


「これで」


「えっと…………はい、丁度頂きました」


本来であれば悩ましい顔を浮かべながら支払うところだが、今日のクライレットはあっさりとした表情のまま支払いを終えた。


「あぁ~~~、食った食った!!! この店も中々美味かったな!!」


「そうだね~~。もう、本当に幸せ~~って感じ」


「……正直、少し食べ過ぎたわね」


珍しくがっつりたんまり食べたペトラも、二人と同意見ではあるが、二割ほど後悔の念があった。


「んだよ。太ったとか気にするんのか? どうせ数日後には元通りだろ」


「はぁ~~~~。そんななんだから、あなたはモテないのよ」


エルフは元々小食よりの者が多いため、太りにくい体質というのもあるが、ペトラは魔法だけではなく弓も使い、戦況によっては前に出て短剣も振るう万能タイプの冒険者。


常日頃から動くため、数日後には元通りの体型に戻っている。


「うっせ。まっ、何にしても今日はよく眠れそうだぜ」


バルガスの言う通り……宿に戻ったクライレットはなんとか寝間着に着替え、即座にベッドへダイブ。


全員、数秒後には夢の世界へ旅立った。

そして翌日…………なんと、全員が完全に起きたのは完全に昼が過ぎた後だった。


「はぁ~~~。さすがに寝過ぎたわね」


「そうだね。逆にちょっと頭が痛いかな」


ペトラとクライレットは四人の中でも比較的朝早く起きるタイプなのだが、本日目を覚ましたのは九時過ぎ。

九時過ぎに目を覚ましたものの、眠気に勝てず……そのまま二度寝。


まさかまさかの三度寝も行い、半日以上寝てしまった。


「ふぁ~~~~~~~、ぁ。いやぁ~~~~、超超超超寝たな!!!」


「そうだね~~。本当によく寝たよ。こんなに寝たのは久しぶりだね」


「……二人共元気ね」


「超超超超寝たんだぜ? そりゃ元気に決まってるだろ!!!」


「バルガスほどじゃないけど、昨日までの疲れが全部消えたって感じだし、ピンピンしてるね」


バルガスとフローラはどれだけ寝ても、普段通りではあるが、クライレットとペトラはあまり寝過ぎると寝疲れるタイプだった。


「私はクライレットと同じ、ちょっと頭が痛いわ」


「仕方ないよ。とりあえず今日は休みだし、のんびり休もう」


「えぇ~~~~。魔物と戦ったらダメなのか?」


「……本当に元気なら構わないけど、街を出るなら日帰りで帰って来てほしいかな」


「ぃよっしゃ!!! んじゃ、フローラ!! 一緒に行こうぜ!!」


少々頭が痛いと言っているクライレットとペトラを誘わないあたり、やはり正真正銘のバカだとは言い難い。


「ん~~……おっけー、分かった。良いよ、一緒に行こうか」


「フローラが一緒なら、大丈夫そうね」


もしバルガスが一人で行くつもりなら、ペトラは止めようかと思っていたが、仮にバルガスが暴走してもブレーキになってくれるであろうフローラが一緒ならと、安心出来た。


「っし、行ってくるぜ!!!」


「二人はゆっくり休んでてね~~~」


ささっと昼食? を食べ終えて宿から出て行った二人。


「……大丈夫よね?」


「日帰りで帰ってきて欲しいとは頼んだ。それに、万が一イレギュラーに遭遇しても、何泊か出来る備えは持っている。そこまで心配しなくても大丈夫だと思うよ」


「それもそうね」


「万が一バルガスが暴走しても、フローラがしっかり止めてくれる筈さ」


「そうよね。だから安心出来たんだし……ねぇ、この後どうする?」


「ちょっと頭が痛いけど、だからといって部屋に籠ってるのもあれだから……とりあえず軽く訓練場で汗を流そうかな」


「良いわね。そうしましょう」


この時、二人は先日……フローラが最近芽生え始めた考えに関する会話を、すっかり忘れていた。

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