兄の物語[16]そこで満足なんだろ?
「これで、終わりですね」
「「「「「…………」」」」」
結局クライレットは一度も木製の細剣を使うことはなく、素手だけで嫉妬ルーキーズを瞬殺してしまった。
(ありゃあ、文字通りレベルが違う、格が違うな……あいつら、これから使い物になるか?)
少し調べれば、クライレットが一番得意な得物が細剣だと分かる。
わざわざ木製の細剣を一応持ち出したことを考えれば、その場でそう捉えるのが自然。
にもかかわらず、クライレットは……ただなんとなく、気分で得物を使わなかった。
「それでは、約束通り一人金貨十枚ずつ、渡してもらいますね」
それはクライレットが嫉妬ルーキーズに、自身に模擬戦を申し込みたいのであれば、自分が勝った時に寄越せと伝えた金額。
そのやり取りは他の冒険者たちも見ており、彼らが言い逃れすることは出来ない。
仮に意地でも払わないという姿勢を取るのであれば……彼らの冒険者としての面子は死んだも同然。
五人は屈辱に震えながらも懐に手を伸ばし、金貨十枚を……投げつけるようにクライレットへ渡した。
「おっと」
全く焦ることなく、クライレットはバラバラに投げられた金貨を全てキャッチ。
「フローラ」
「はいはい」
パーティーの財産管理をしているフローラへ金貨五十枚を渡し、要件が終わったクライレットはパーティーメンバーたちとその場を離れようとする。
「っ……貴族出身だからって、調子に乗りやがって」
「…………」
完全に負け惜しみも負け惜しみ。
クライレットからすれば、まさに負け犬の遠吠え。
確かに一人金貨十枚を投げ渡しはしたが、結果として恥を晒すのを変わらない。
「ふぅ~~~~……君たちは、そうやって逃げるのかい?」
「っ!!!!! 受けたい教育を受けて!!! それを自分の力だと勘違いしてる野郎が、調子に乗ってんじゃねぇつってんだよ!!!!!!」
相変わらず負け惜しみ……ではあるが、遠吠えを吐いた嫉妬ルーキーの言葉に共感出来る者たちが何人かいた。
貴族とは……基本的に、生まれれば教育を受けられる。
文字を覚え、礼儀作法を覚え……武器術や魔法の教育を受けることが出来る。
家によって差はあるが、それでも……全く教育を受けられないことはない。
それが……平民にとっては、などから手が出るほど羨ましい環境である。
世の中には学びたくとも学べない者がある。
それは紛れもない事実であった。
「……なるほど。それは確かに一理あるね。僕には元Aランクの父と母がいる。超という言葉が十個ぐらい必要な凄い弟が居たから、パーティーで僕の家族をバカにする連中を潰すことも出来た…………でもね、僕の学ぼうという意志を……これまで積み重ねてきた努力は、バカにしてほしくないかな」
「「「「「っ!!!!!!!!」」」」」
これまで死線越えてきたことがあるからこそ、失禁せずに済んだ。
それでも……五人の体は、確かに震えていた。
「学べる環境があるのは、確かに幸運なことだよ。でもね、教えられている本人に学ぶ気がなければ、意味がない」
「それは、そいつが怠惰なだけだろうが!!!!!!!」
「そうだね。それで……今の君たちは、怠惰ではないと言えるのかな」
「……んだと。俺らが…………俺らが怠惰だって言いてぇのかッ!!!!!!」
震えを薙ぎ払い、憤怒に染まる。
クライレットが彼らに放った言葉は、その人生を否定する……受け取り方は様々だが、彼らはそう受け取れた。
だが、そんな言葉を口にした本人は止まらず、周囲の視線を気にせず止める気は一切ない。
「多分、Dランクの冒険者だよね。僕に負けてちゃんと金貨十枚を出せるなら、そこまでお金には困っていない……それなら、学ぶ為のお金も用意出来るよね?」
私塾、そういった教室はこの世界にも存在する。
月謝を払えば、剣術や武術などを学ぶことが出来る。
ギルドでも講習会などを行っており、用意するのがそこまで難しくない値段で上級クラスの冒険者の講義を受けられる。
「今、こうしてそういう事を僕に投げかけるということは、教育云々に不満があるんだよね? なのに、なんで君たちは貪欲に学ぼうとしないのかな」
反論はある。
当然あるのだが、クライレットの圧が有無を許さなかった。
「冒険で疲れてるから、休日ぐらいゆっくり休みたい。その気持ちは解らなくもないけど、その気持ちを優先するということは、君たちの強くなりたいという気持ちが、その程度だったということだよね。それなら……そこで満足してれば良いじゃないか」
そこで満足するような人間が、いちいち僕に絡んでくるな。
そう言いたげな冷徹な目を最後に、クライレットは訓練場から出て行った。
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