少年期[985]……色々と無理な筈

「んじゃ、今日はこれで終わりだ。ちゃんと飯食って寝ろよ」


そう言いながらルーキーたちの中でリーダー的存在である青年に金貨三枚を渡し、それで好きなだけ夕食を食べろと伝えてギルドを出て行く。


金貨三枚はそれなりの大金ではあるものの、Dランク以上の冒険者からすれば、そこまで珍しい程の金額ではない。

ただ、まだまだ金策に悩むルーキーたちにとっては非常に大金であり、彼らは溜まった疲れが一瞬で吹き飛んだのか、ダッシュで行きつけの酒場へと向かった。


「ねぇ、ゼルート。ゼルートから見て、見込みのある子はいた?」


「ん~~? そうだなぁ……正直、そこまで跳び抜けた奴はいなかったな」


次世代のスーパールーキーはこいつだ!!! と言えるほどの才覚を持つ者はいなかった。


しかし、ゼルートから見て……まだ一日しか見てないものの、彼ら彼女たちは非常に自分の話をよく聞いてくれた。

その点に対して非常に好印象を持った。


「でも、こっちが説明したことを本当に良く聞いてくれた。訓練でも、教えた欠点を直そうと必死で努力してた……そういう奴は、何だかんだで伸びると思うんだよな」


「概ね同じ感想ね。ゼルートの影響力があっての素直さだと思うけど、あの素直さが続くのであれば、早々死ぬことはないでしょうね」


「うむ、死なないというのは確かに大事だな!」


次世代のスーパールーキーが見つからなかったという点に関してはルウナ的に、やや物足りない思いがあったものの、決して悪い印象はなかった。


「やっぱりゼルートとしては、あの子たちみたいな冒険者は、この街を拠点に活動してほしい?」


「……良い奴らっていう印象はある。でもな、だからってあいつらの冒険者人生を縛ろうとは思わない。他の街に行かなければ得られない楽しさってのは絶対にある」


実体験として、ガレンが治める街にいるだけでは得られなかった楽しさが本当に多い。

それらの楽しさを知っているからこそ、ルーキーたちにもそれを味わってほしいという思いがある。


「だから……もう冒険者としての人生を楽しめるだけ楽しめたのなら、残りの人生をここで過ごしてくれると嬉しい……とは思うかな」


「どこで生活していようとも、死ぬ可能性は平等にあると思えば、確かに一度も生まれた街から本格的に出ないっていうのも勿体ないわね」


「そうだろ。まぁ、その危険があるからこそ、躊躇う人も多いんだろうけどな」


ゼルートの前世、生まれた国……日本であれば、生まれた県から別の県へ移動することなど、全く珍しい事ではない。


(モンスター、そして盗賊団という存在がある限り、人々が街から街へ……あるいみは国から国へ自由に安心して行き来する日は……この世界に訪れることはないだろうな)


超が五個ぐらいでは足りない異常な強さ、能力を持つゼルートであっても、その様な世界を……環境をつくるのはさすがに不可能に近い。


ラームに手伝ってもらえば……百年以上経過しても頑張り続ければ不可能ではないかもしれないが、そもそもゼルートにそんな事をする気は一切ない。


「ん~~~……街から街ぐらいなら、ゼルートが本気を出せば安全に通れるように出来るんじゃないの?」


「仮に本気でやるとしたら、色々と素材が必要になるだろうな。つっても、そんな同業者の仕事を奪うような真似は

しないけどな」


「あら、意外とそういうところを考えるのね」


「俺も実家を出た時から少しは成長してるってことだ」


自分でそれを言ってしまうあたり、どうなのかと思ってしまうが……一応それなりに成長していると言えなくはなかった。


「……なぁ、ゼルート。そういえばラルフロンのギルドに、モンスターを寄せ付けないマジックアイテムの製作方法? みたいなのを教えてなかったっか?」


「なんだそ、れ…………いや、ありゃ海限定……限定ではないか。でも効力は海というか水中の方が上だし、まだ開発出来たって話は聞かないし……出来たとしても、コストの問題的に全ての道に用意することは出来ないだろ」


鋭いツッコミに対し、慌てて反論するゼルートだった。

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