少年期[979]伸ばせる部分

「それじゃぁ、よろしく頼む」


「あぁ……良い戦いをしよう」


基本的な報告を終え、用事が済んだルウナは早速屋敷の外へと移り、ゲインルート家に滞在しているオーガの亜種……ブラッソの元へ向かい、模擬戦を始めた。


「二人とも、ゼルートたちがつくった結界が壊れないぐらいにしてよ!」


二人ともアレナの言葉に頷きはするものの……本当に解かっているのか怪しいと感じてしまう。


ルウナとブラッソがバチバチの模擬戦を行う中、ゼルートは実家の料理人たちと一緒に海鮮丼の準備を行っていた。


バカンス中に何をしていたのかという話の中に、当然権力者や金を持っている冒険者たちに何度も何度も海鮮丼を作ったという話も入っている。


そんな話を聞けば、当然ガレンやレミア……ゼルートの妹であるセラルも興味津々となる。


(ルウナの奴……ちゃんと模擬戦だって解って戦ってるのか? まだブラッソの方が強いとはいえ、がっつり強烈な叩きこんでるよな……)


青空の下で解体などを行っているため、二人の戦闘光景がチラ見出来る。


最初は互いに魔力もスキルも使わない状態で戦っていたが、徐々にスキルや魔力を纏い始めていた。


(ブラッソの方が自分より上だって認めてるからこそ、胸を借りるつもりで挑んでるのか? それはそれでルウナらしい気はするが……まぁ、ブラッソも楽しそうな表情を浮かべてるし、大丈夫っちゃ大丈夫か)


ゼルートとラル、ラームの三人で結界をつくったので、まだ二人の戦いに耐えられている。


結界の外で見学してるアレナは万が一の心配で胸が一杯だが、その心配は全くの無駄となり、模擬戦は終了。

勝者は……ブラッソ。


ルウナの攻撃が全くブラッソに効いていなかったわけではないが、やはり一撃の破壊力はブラッソの方が勝っている。

スピードだけならルウナの方が勝っている様にも思えるが、ブラッソは基本的にゲインルート家に滞在している間、毎日の様にガレンと模擬戦を行っていた。


腕力も並の戦闘者に劣らないガレンだが、やはり剣技の技量が非常に優れており……毎日毎日模擬戦を行っているブラッソからすれば、その技量にどう対応するかが課題点だった。

そのため、自然と技術力が向上し……自身よりも素早い攻撃に対して対応が上手くなっていた。


「だぁ~~~~……くそ、まだ勝てないか」


「模擬戦という状況を考えれば、十分戦えてたと思うぞ」


「十分、では駄目なんだ。もしもの時に、ゼルートの力だけに頼る訳にはいかないからな」


用意された海鮮丼を食べながら、負けたというのにその眼は常に前を向いている。


(ゼルートの力だけに頼る訳にはいかない、か……)


パーティーメンバーの言葉に思うところを感じるアレナ。

そのまま海鮮丼を食べる手を止めず、これまで体験してきた出来事を振り返る。


(…………もっと、貪欲になった方が、良いかもしれないわね)


ある決心をしながらも、海鮮丼を食べる手は止まらない。

結局腹八分目を越えてしまう量を食べてしまったため、食後に小休憩。


「ガレン。その……もし良ければ、私と模擬戦をしていただけないでしょうか」


「おっ、良いのかい? それじゃあ、体を少し動かしたら直ぐに始めようか」


「あ、ありがとうございます!!」


ゼルートの様になんでもは出来ない。

それでも……出来る部分はある。

ならば、そこをこれ以上ないと思うぐらい伸ばす。


「ゼルート兄様、今度はお父様とアレナさんが、戦うの?」


「そうみたいだね、セラル。アレナはあんまりがつがつ模擬戦行うタイプじゃないんだけど……これは、ちょっと

面白そうだね」


再度ゼルートとラル、ラームの三人で結界を展開。


ブラッソたちが審判となり、軽く準備運動を終えた二人は開始線の前に立ち……二人はほぼ同じタイミングで踏み込んだ。

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