少年期[971]その選択肢は、あり得ない
ガラックスが捧命の指輪を使用するのは、この試合が始めて。
当然のことながら、練習で生命力……寿命を無駄にする様な真似は出来ない。
それ故に、どこまでが自身の限界なのか解らない。
(ぐっ!? これ以上身体能力を上げてしまうと、持たない……ここで最後、決めるしかない!!!!!)
(っ!!?? 来るか、最後の一撃…………ははっ、逃げるなんて選択肢、あり得ねぇよなッ!!!!!)
自身から大きく距離を取ったガラックスの行動を瞬時に察し、ゼルートも同様に後方へと跳び、構える。
「「………………ッ!!!! オオオオオォォ、ァアアアアアアアアアッ!!!!!」」
最終準備を終えた二人は同じタイミングで飛び出した。
ガラックスの二振りには絶対零度の冷気が纏われており、ゼルートの二振りには天雷と轟氷が纏われていた。
「「「「「「「「「っ!!!!???」」」」」」」」」」
二人の文字通り必殺技がぶつかり合った瞬間……ラルとラームが張っていた結界が一瞬砕けかけた。
それは一部だけではなく、結界全体に大きな亀裂が入った。
とはいえ、事前に次のアクションが本当に危険だと察した二人は自身の全魔力を使い切っても構わないと思い、結界を超強化。
結果として結界の修復が間に合い、誰一人として衝撃波によって吹き飛ばされ、意識を失わず、怪我を負うこともなかった。
ただ、二人のバチバチ過ぎる戦いは周囲の人たちに怪我を負わせることこそなかったが、結界が守れていなかった床部分はボロボロになっており、最後の激突によって大きな煙が上がった。
「……どっちが、どっちが勝ったんだ!!??」
土煙が晴れ……中心地に立っていたのは、英雄と呼ばれた少年であり、一次的にとはいえSランクに及ぶ戦闘力を有した騎士団長は片膝を付いていた。
「ッ!!!!??? ゼルートっ!!!!!!」
「大丈夫。これぐらい何ともないから、安心しろアレナ」
勝者はゼルート・アドレイブ……覇王戦鬼だったが、冷気が右肩を覆っており、一部が欠けていた。
「はぁ、はぁ、はぁ………………我が命を懸けても、及ばなかった、か」
「俺的には、そんなに悲観しないで、欲しいかな。ぶっちゃけ、悪獣と戦って以降はこんな怪我しないと思ってたんだけどな……あんた、本当に強かったよ。尊敬に値する強さと覚悟だった。正直……心底震えたよ」
「…………騎士とは、融通が利かない部分が、あるな」
ゼルート・アドレイブは確かにディスパディア公爵家の三男を、愛弟子の一人を殺した仇ではある。
しかし……本気で、己の全てをぶつけて戦ったからこそ、少年が歳不相応の鍛錬を重ねてきたことが解かる。
覇王戦鬼は間違いなく紳士的な戦士だった。
戦場では、ディスタール王国の国民、戦闘者たちからすれば悪魔の様な存在かもしれないが、それでも……自身の実力を、覚悟を称えられ……嬉しさを殺せなかった。
「あれらは、まぁ…………あれだ、別にこれから良い関係を築ける人間じゃない。ディスタール王国、オルディア王国のどちらが先に吹っ掛けたのかなんて、俺ら下の人間には関係無い」
ゼルートは言葉を続けながら一瞬だけラームの方に視線を向け、何かを伝えた。
「あんたはあの偉大な大将の師匠? そういう立場もあるし、個人的に仲良く出来る訳でもない。でもな……」
言葉が途切れたタイミングで、ガラックスの体が淡く輝き始めた。
「ッ!?」
「あんた強さには、心の底から感服した。だからこそ……これからの人生は、それを使わずに精々長生きしてくれ」
「ッ…………ゼルート殿、あなたはいったい……何者なんだ」
実際に生命力を、寿命を消費したからこそ、今自分の体に生命力が受け渡されていることが解かる。
「何者なのかって聞かれると、返答に困るけど…………あれだな、ちょっと恥ずかしいけど、覇王戦鬼って答えるしかないかな」
その歳相応なのか、それとも大人びているのか曖昧な笑みは、覇王という名にはあまりにも不釣り合いな優しいものだった。
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