少年期[946]去る前に一仕事

「また随分儲かりそうな話に関わろうとしないのね」


「アレナ……金は大事だが、そんなに大量に手に入れたところで、どうするって話だろ。俺は軍隊でもつくれば良いのか?」


「別にそういうわけじゃないわよ。でも、ゼルートがその気になれば本当につくれそうね」


「史上最強の軍隊の完成だな」


ルウナとしては中々に面白い考えであり、仮にそうなれば自分は一部隊率いる隊長? という思いが浮かんだが、全くイメージ出来なかった。


「大量に金を稼いだとしても、実家に送って街に発展資金にしてもらうかな」


「とんでもない親孝行ね」


既にゼルートがゲインルート家に与えた影響を考えれば、とんでもない……という言葉だけでは表せない。


「つか、ダンジョンの発見とまだまだ途中とはいえ、地図やボスの情報だけで大金が入ってきそうなんだ。マジックアイテムの権利とかは他の人に渡す」


この宣言通り、数日後……ゼルートは冒険者ギルドに地図を取りに行った時、こういったマジックアイテムを造る様に錬金術師たちに頼んだらどうだ? と提案した。


「そ、そんな手が……って、ゼルートさん。それは……その、あなた自身が造ろうとは思わなかったのですか?」


最も過ぎる問いではあるが、もうゼルートの考えは決まっている。


「俺は冒険するのに忙しいんで、そこら辺は本職の錬金術師たちに任せます」


「そ、そうですか」


よくよく考えれば納得の話。

ゼルートはソロでSランクのモンスターを討伐する戦闘力を有しており、その他のメンバーも高い戦力を有している。


それだけの戦力があれば、モンスター討伐だけで十分に稼ぐことが出来る。


「んじゃ、俺は数日後にはラルフロンから出るんで」


「えっ!!!???」


現在話している場所は完全防音機能付きの個室であるため、ギルド職員の声が外に零れることはない。


しかし、今の職員はそういった事情を忘れるほど、本気で驚いていた。


「え、なっ……もう、行ってしまうのですか」


「もうって、俺結構な間ラルフロンに滞在してましたよ。元々一か月ぐらいの予定でしたし」


海鮮丼を依頼者に作るため、海中ダンジョンを攻略する為にと、予定より随分と長く滞在することとなった。


「そうでしたが……で、であれば、最後にギルドの願いを聞いていただけませんか!!!」


「何ですか?」


薄々感じていた嫌な予感は、見事的中。

ギルドの依頼というのは……最後に纏めて金のある冒険者たち、権力者たちに海鮮丼を作ってほしいという内容だった。


それなりに金を持っている冒険者は元より、権力者たちであっても……正式な爵位を手に入れたゼルートは、戦力的にも政治的にも恐ろしい存在。

絶対的に回してはならない……それぐらい解っているのだが、それと不満は別の問題。


直接ギルドにクレームが飛んでくることはないが、職員がそういった者たちと接する際に、軽く嫌味などは飛んでくる。


(はぁ~~~~~~~…………しゃぁないか)


心の中で深い溜息を吐くも、仕方ないと了承。


ゼルートは冒険者としては中々に異次元の存在ではあるが、それでも冒険者ギルドという組織に属する人間であることに変わりはない。


(関係無いというか、全く悪くない職員たちがあれこれ言われるのも可哀想だしな)


ゼルートは一日だけ海鮮丼を作ることを了承し、数人だけ街の料理人を貸してほしいとだけ伝えた。


職員はほんの少し嬉し涙をこぼしながら、ゼルートからの要望を承諾。

条件である米を炊くことが出来る、魚類系のモンスターを捌くことが出来る料理人たちを翌日までに用意。


翌日予定を開けるのは店を預かる料理人として中々に厳しい……と、腕利きの料理人の元を訪れた職員たちだったが、あのゼルート・アドレイブと料理が出来るならと、快く了承した。

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