少年期[938]もう見慣れた光景
両者のブレスが衝突し……当然、ラームとブルーシーサーペントも後方に押し飛ばされる。
しかし、ラームはその流れを把握しており、風の魔力を利用して海上に飛び出し、上手くブレーキをかけた。
それに対してブルーシーサーペントにその様な術はなく、ブレスの衝撃で顔面が飛び散ったりすることはなかったが、後方へ押し飛ばされ……数秒間の間身動きが取れなくなった。
(やっ!!!!)
その隙を突かれ、ラームのドリル触手が見事ブルーシーサーペントの脳を貫いた。
「ゼルート~~、倒したよ~~~~」
きっちり死体をキャッチし、上空へ戻って仲間たちに討伐完了を知らせる。
「おぅ、お疲れ。楽しかったか?」
「うん! 楽しかったよ!!」
若干の物足りなさはあれど、楽しかったという言葉に嘘はなかった。
「んじゃ、周りに面白そうな気配もないし……帰るか」
まだまだ亜空間の中に魚類の魔物の身が残っているため、ゼルートとしてはささっと報告を終わらせて海鮮丼を食べたい。
「討伐、終わりました」
ギルドに戻り、いつも通りの様子でブルーシーサーペントと複数のシーサーペント討伐完了を伝える。
「あ、はい……えっと、解体はまだ、でしょうか?」
「はい、そうですね。入りきりそうな倉庫とかってあったりしますか?」
「も、勿論です!! ご案内しますね!」
海中に生息するモンスターは比較的、陸上のモンスターよりも大きい。
そのため、ラルフロンの冒険者ギルドに併設されている解体倉庫は他のギルドと比べて、かなり大きく造られている。
ギルド内にたまたまいた冒険者たちは、本当にこんな短時間で討伐したのかと疑いの目を向ける者もいるが……本当に仕方ない事なのである。
ゼルートたちと彼らでは、あまりにも移動力と攻撃力……各分野の出力に大きな差がある。
今回船を何度も襲って被害を出したブルーシーサーペントはBランクの魔物だが、一般常識を大きく超える戦闘力を身に付け、今もなお成長中のゼルートたちにとっては、身の危機を感じる相手ではない。
「へぇ~~、本当に広いな」
倉庫の広さに感心しながら早速ブルーシーサーペントと複数のシーサーペントの死体を取り出し、解体スタート。
ギルド専属の解体師たちが丁寧に……集中してブルーシーサーペントの解体を行っている間、ゼルートたちは残りのシーサーペントを手際よく解体していた。
「今日はこれで呑んでください」
「ッ!!! はは、流石本物の英雄だ! 気前の良さが段違いだぜ!!!」
ゼルートが解体士たちに渡したチップの金額は約金貨十枚。
チップの量としては非常に破格の額だが、ゼルートは真面目に解体士たちの働きぶりを考えた結果、それぐらいの金額が妥当だと思った。
決して、解体士たちの信用ぐらい金で買っておいた方が良いかもな、なんて考えは一欠片もない。
「ゼルートさん、こちらが素材買取のお金と、ブルーシーサーペントを倒していただいた分の報酬金額になります」
ゼルートの目の前には、合計……約白金貨十枚の大金がある。
ブルーシーサーペントの報酬金額に関しては、ギルドからだけではなく、船を使って取引をしている商会たちも幾らか出している。
当たり前だが、討伐に向かったのがゼルートたちだからという理由で追加された特別報酬ではない。
(思ったよりも多いな。夜はこの前とは違う良い店に行くか)
袋に入っている金額が大金であることは理解している。
理解しているが……ゼルートにとっては、もう見慣れた光景。
討伐に失敗したそれなりに実力がある若者たちにとっては、喉から手が出るほど欲しい大金だが、ゼルートにとっては頑張れば即座に稼げる金額。
そんな多くの意味でぶっ飛んだ怪物に手を出そうとした馬鹿三人は……討伐成功の話を耳にし、馬鹿の一つ覚えのごとく怒りを露わにしていた。
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