少年期[907]そこまでの馬鹿はいない
「あの、船は本当に……」
「えぇ、大丈夫です。自分たちでなんとかするんで」
ゼルートたちに助けを求めた商会は、移動手段の為に船を用意していた。
離れた陸地に拠点を構えている場合を考えれば、移動手段となる船は必須。
しかし、ゼルートからすれば船での移動は非常に遅く感じる。
商会が用意した船はマジックアイテムに分類される小型船ではあるが、自身の力で移動した方が断然速いため、その気持ちだけ有難く貰った。
「ゼルート、私も動けるぞ」
「みたいだな。でも、今回は陸地の方の探索を頼むよ」
大陸と大陸の間にある陸地を探すのはゼルート、ゲイル、ラルの三人。
そして大陸側にあるかもしれない拠点を探すのはアレナ、ルウナ、ラームの三人と決まったが、ルウナはやや不満げな表情を浮かべていた。
「むぅ……分かった。だが、次の機会があれば、私はそっち側で動く」
「分かった、分かった。とりあえず、今回はそっち側を頼むよ」
ゼルートたちは冒険者ギルドの方から海鮮丼以外の指名依頼が来たという報告を受けた翌日、早速交易船を狙った海賊たちを探し始めた。
ゼルートが作った海鮮丼を食べたい金持ち、小金持ちたちはいきなり指名依頼を出せなくなった事実に対して、文句をぶつけなかった。
仲間内で愚痴を零すことはあっても、決して他人がいる前では不用意に零さないよう努めていた。
理由は単純。
海賊という危険な存在を後回しにして、自分の為に美味い飯を作れ!!!! などと、頭が悪過ぎる発言をしようものなら、多方面からの信用を無くすのは目に見えている。
「んじゃ、行くか」
「はい」
「えぇ」
体のサイズを大きくしたラルの背に乗るゼルート。
ゲイルは風の魔力と脚力を使い合わせ、空を蹴る。
無茶過ぎるだろ!! と思われても仕方ない移動方法だが、ゲイルやゼルートなどの一部の者たちにしか習得出来ない技術ではない。
ただ、失敗すれば木や建物、地面に激突してしまう可能性があるだけ。
(船を切断できる武器、か……どうやら、それも持ち帰って欲しい武器の様だから、俺の武器にはできないが、やっぱりどんな業物なのかは興味あるな)
その武器はゼルートたちに指名依頼をしてきた商会の商品ではないが、縁がある商会の武器であるため、ゼルートが自分の物にすることは出来ない。
ギリギリ契約内容から外れてなくもない頼みなので、断ることも出来たがゼルートは素直に了承した。
「ゼルート様、嬉しそうな顔ですね」
「頬が緩んでるか?」
「えぇ、少々緩んでいます」
ゲイルの言う通り、ゼルートは喜色満面とまではいかなくとも、楽し気な笑みを浮かべていた。
「海賊の中に、強敵がいると?」
「それなりに強い奴らはいるだろうけど、目当ては船を斬った獲物だ」
「……なるほど」
商会の情報から、おそらくその武器は刀。
当然、そこら辺に転がっている程度の質ではなく、まさに業物と呼べる一振り。
刀技に優れた者であれば話は別だが、そうではない者が程度の低い刀を使っても、船をぶった斬ったという表現の斬撃を起こすのは難しい。
であれば、名刀だと断言するが必然。
ゲイルも名刀が纏う魅力を知り、解っている事もあり、その名刀を手に入れられずとも、見ることが出来るという喜びは理解出来る。
「ゼルート様、あちらの方に相応しい陸地があります」
「とりあえず近づいてみるか」
ラルが見つけた小島と呼ぶには小さい陸地に、一応近づく。
「……ただの陸地っぽいな」
「では、次の場所に向かいましょう」
気配感知の範囲を広げれば、孤島に人がいるか否かは即座に分る。
地道な作業ではあるが、船よりも速く移動できる三人であれば、一日も掛ずに海賊のアジトを見つけるのは不可能ではない。
「一応、反応ありだな」
生物の気配を複数感じ取り、上陸した三人は本日最初の戦闘を始めた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます