少年期[894]狙われてる側は気付く
「そろそろか?」
「多分そうね」
ホルーエンを出てから五日後……ゼルートたちが走って移動した甲斐もあり、本日中には確実に到着できる距離まで移動していた。
「今更だけど、よくここまで短時間で移動したわよね」
「そりゃ走って走って、偶に簡易トラックで移動してたからな」
人の通りが少ない道中では、土の魔力を利用して生み出したゼルート特製の簡易トラックで高速移動。
人通りが多い道中では、少し道をズレて移動していたため、人とぶつかることはなかった。
「……今更だけど、そのトラック? って、本当にズルいわよね」
「魔力操作の賜物だ。誰だって頑張れば、同じことを出来るって」
「でも、ゼルート並……とは言わないけど、それなりの魔力量がないと維持できないでしょ」
「それはそうだな。そこも、本人の努力次第だ」
便利な移動手段ではあるが、結局のところ高い魔力操作と膨大な魔力量がなければ、思う様に移動は出来ない。
「別にトラック以外のあれもあるけど……まっ、どちらにしろ本人の努力次第だな。あんまり集中し過ぎてると、左右から飛んでくる攻撃に対応出来ないかもしれないけど」
「ソロで行動してない人なら大丈夫そうだけど……あら、ようやく匂いがしてきたじゃない」
近くに海があると、独特の匂いが漂う。
その匂いに関しては、前世から知っており……ゼルートはその匂いが嫌いではなかった。
(色々と生活するうえで問題はあるんだろうけど、今回みたいに休暇でくる分には、本当に丁度良いというか……うん、個人的にこの匂いだけで癒されるな)
数時間後、ようやく目的の街……ラルフロンへ到着。
まだ明るい時間帯なため、門の前に並ぶ者は多い。
当然、ゼルートもその列に並ぶ。
そんな中……声を掛けてくる人種がいた。
その人種とは……貴族。
(め、めんどくせ~~~~~~~~)
本人は非常に面倒で嫌がっている。
しかし、その感情を素直に表に出してはならないと解っている。
リゾート地であるラルフロンには、休息や癒しを求めて訪れる貴族が多い。
そんな貴族たちにとって、ゼルートという存在は是非とも顔を覚えてもらいたい特別な人間。
災害そのものと呼ばれる魔物を単独で討伐し、更には先の戦争で殆ど一人で終わらせたと言えなくもない活躍を果たした英雄。
そんな現役の冒険者にして、貴族の令息という位置から独立した新しい貴族なった、極めて稀有な存在。
それがゼルート・アドレイブ。
(当然、私たちの方にも視線が興味が向くよね)
(ふむ……足りないな)
英雄の仲間であるアレナとルウナにも、ゼルートの元を訪れる貴族の当主や令息たちは挨拶を行う。
特に、令息たちは中々に気合が入った自己紹介を行う。
何故か?
それは当然……将来の嫁候補として見ているから。
生まれた家によっては、自分で嫁候補を探さなければならないこともあり、例え婚約者や恋人がいても……アレナとルウナは魅力的な女性であることに変わりはない。
二人もゼルート程ではないが、戦争で大きな戦果を上げた。
嫁にするには完全に旦那を尻に敷く強さを持っているが、一般的な貴族令嬢にはない美しさを有している。
挨拶時、露骨にアプローチすることはないが、それでも狙われている側の二人からすれば、野郎どもの感情など手に取るように解かる。
(二人はモテモテだな~)
意識を二人に向けている者たちも、パーティーメンバーのゼルートと二人が恋仲ではないと確認済みだからこそ、挨拶に力を入れて意識していた。
「確認出来ました。ようこそ、ラルフロンへ」
門兵たちに身分証を確認してもらい、ようやく中へ入ることが出来たゼルートたちは……一先ず宿が多く並ぶ場所へ向かった。
リゾート地とはいえ、宿のランク差はそれなりにある。
当然ゼルートたちが目指す宿は、最高ランクの宿。
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