少年期[892]会話内容覚えてる?

まだゾンビがいないか探した結果、ゾンビ化した高ランクのモンスターと遭遇することはなかった。


探索期間は一日だけではなく、三日。

それなりの距離を移動し、方角も日によってバラけた。


(これだけ探してもいないってことは、もう本当にいないだろう…………アイスタイガーやスノードラゴンクラスの魔物がごろごろいたら、ホルーエンの領主もたまったもんじゃないだろうしな)


探せるだけ探した。

その結果一体も見つからなかったため、ゼルートはこれ以上怪しい集団が生み出したゾンビモンスターがいないか、探すのを止めた。


「三日も探したのだし、十分だと思うわ」


「私も同意見だ。三日も探した結果、ウィルッシュバニーを二十近く……いや、二十は超えていたか? とにかく大量に狩れたんだ。文句なしの結果と言えるだろう」


「ふふ、それもそうだな……うん、これ以上気にしても仕方ない」


ゼルートは強い。とてつもなく強大な力を持っているが、全知全能の神ではない。


ここでゼルートが探索を止め、今後ホルーエンに何かしらの災厄が襲い掛かってきたとしても、それはゼルートのせいではない。


強いて言うなら、ホルーエンの武力不足が問題。

兵士や騎士、冒険者の質など全て考慮しても……弱くはないが、強くもないというのが貴族間での評価。


ゼルートは兵士や騎士の強さは見てないが、ホルーエンを拠点とする冒険者の強さはある程度把握している。

悩まずとも、評価は他の貴族たちと同じ。


今回の一件に関して、最悪の事態が起こっていれば、まず潰されていたのはホルーエン。

ゼルートたちが訪れていたのは、本当に幸運だったしか言えない。


「それで、次の目的地であるリゾート地だけど、ラルフロンで良いわよね」


「ラルフロン、ラルフロン……あぁ、そこか」


実際に行ったことはない。

行ったことはないが、元冒険者であるガレンとレミアから、当時の話を教えてもらったことがある。


「あら、行ったことがあるの?」


「いや、ないよ。ただ、父さんと母さんが、現役時代の時に行ったらしくて、当時の話を聞いたことがある」


「そうだったのね。私も一回だけ行ったことがあるの。本当に休暇に適した街……うん、適した街ね」


アレナの笑顔が若干ではあるが曇る。


リゾート地であることに変わりはない。

海の透明度もそれなりに高く、一年を通して気候が安定している為、どの季節でも観光目当ての者たちが多く訪れている。


ただ……海には海で、山や森にダンジョンと同じ様に……危険がある。

その危険とは、海に生息する魔物。


当然、海にも魔物は生息している。


基本的に観光客が泳げる範囲には魔物が侵入してくることはなく、海でも十分に活動出来る冒険者たちが、警戒のために気配感知を使いながら、侵入してこようとした魔物を即座に倒せるようにしている。


「どうしたんだよ。笑顔が急に曇ったぞ」


「……海にも魔物はいるのよ」


「うん、そりゃそうだろうな。別に良いじゃん、俺は楽しみだぞ」


「…………」


パーティーのリーダーに向ける様な顔ではない。

そんな事は十も百も承知のアレナだが……ゼルートに対して「ダメだこりゃ」といった顔を向けてしまった。


「そうだな、私もそれに関しては非常に楽しみだ!!!」


ゼルートと同じ発言をしたルウナに対しても、同じ顔を向ける。


二人は今話している会話の内容を忘れてしまったのだろうか?

次の目的地は……リゾート地。

休息のために向かうと話し合っていた。


海は海で魔物がいると口にしてしまったのはアレナではある。

ただ、休暇期間ぐらいはのんびりと、魔物のことなど忘れて休みたい。


そう思っていたのだが、二人の様子を見る限り、それは無理そうだと半ば諦めるしかなかった。


しかし、これからリゾート地であるラルフロンに行くことは決定。

用意が済んだゼルートたちは、いつも通り自分たちの足で目的地へと向かった。

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