少年期[825]疲労度は前回の方が上

戦争が終わった後、お偉いさん達は色々と処理しなければならないことがあるが、冒険者であるゼルートには関係無い。


悪獣戦並みに動いたゼルートはマジックテントの中でだらだらと寝転がっていた。


「ゼルートにしては珍しくぐったりね」


「ぐったりって訳じゃないけど……まっ、ちょっとは疲れたかな」


さすがのゼルートも、数時間通しで戦い続けたことで、少なからず疲労は感じていた。

ただ、悪獣戦の時よりも疲労感は少なかった。


何故なら……長時間の戦いと言えど、戦っている最中に死の恐怖を感じなかったから。


「ゼルート、どうやら敵の総大将との戦い、一瞬で終わらせたようだな」


「……もう耳に入ってるのか?」


ゼルートは二人には、まだローレンスとの戦闘内容を話していなかった。


だが、戦場から先日まで拠点にしていた場所に戻ってきてから、自国のお偉いさんに少々今回の戦争について尋ねられた。

その際に、印象に残っている戦いについてはサラッと話し、その中にはローレンスとの戦いも含まれていた。


「徐々に広まってるわよ。ゼルートが敵の一番強い相手を一撃で倒したって」


「一番強いって……いや、一番強かったか?」


ローレンスと相対して、強いというのは即座に分かった。

だが、少し考え……目の前の敵を速攻で倒そうと決めた。

速攻で倒すために、過去に国王陛下から頂いた獅子王を抜いた。


(そういえば、途中から冒険者よりも兵士や騎士を相手にしてたよな……その中にも強い奴はいたけど、戦った敵という縛りなら、あの人が一番強かったか)


実際のところ、ローレンスがディスタール王国側の者として一番強かったかは、不明。


冒険者としての勘が、ゼルートとの戦闘は避けろと告げた。

故に強制ではないので、ディスタール王国側の冒険者たちはなるべくゼルートとゲイルと衝突することを避けた。


なので本当に一番かどうかは断定できないが、それでもゼルートが今回の戦争中に戦った相手の中であれば、一番の強敵であったことに間違いはない。


「ちなみに、何を使って倒したの?」


「疾風迅雷と他の強化スキルを使って……武器はフロストグレイブから獅子王に切り替えた」


「獅子王って、確かゼルートが過去に国王陛下から一対三の勝負に勝利した褒美として貰った名刀、だったかしら」


「そんなところだな」


ゼルートは今まで殆ど実戦で獅子王を使ったことがなかったが、刀自体は商人から取り寄せてもらい、いつでも獅子王を振れるように鍛えていた。


「それで、居合・瞬閃を使って倒した」


「なるほどね。そりゃ瞬殺になる訳よ……一応訊くけど、そのローレンスっていう副騎士団長から何も剥ぎ取ってないでしょうね」


「……武器だけは、貰ったぞ」


ゼルートとしては、ローレンスが持っていたフロストグレイブの上位互換とも思える武器、氷絶に興味を持ってしまったため、それだけは戦利品として貰った。


「ッ!!!!! …………ほ、他は、他の物は剝ぎ取ってないんでしょうね」


「あぁ、勿論。武器以外は特に興味を持たなかったからな」


結果として一対一の真剣勝負は一瞬で終わった。


しかし、それでもゼルートは自分の前に出てきたローレンスに対し、敬意を持っていた………持っていたからこそ、彼が持っていた武器が欲しくなってしまったと言える。


「てか、俺の話はもう良いだろ。二人はどうだったんだ?」


「最高に暴れたな。非常に楽しかった」


戦争に参加して非常に楽しかったと答えるのは不謹慎であろう。

だが、ルウナは自分の気持ちを偽らず、素直に答えた。


「私は別に楽しくなかったけど……あれだけは貴重な体験だったわね」


ディスタール王国側の騎竜騎士たちとの戦闘で、ラルの背に乗って戦った空中戦。

今回の戦争中、それだけはアレナの中で、ワクワクした経験となった。

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