少年期[773]それでも……心配なんだよ
場所は広場から会議テントの中へと戻り、先程までと変わらない流れで話が進んでいく。
だが、先程までと比べて……明らかにゼルートに向ける視線が違った。
こうなるだろうな~~、というのはゼルートも分かっていたので華麗にスルー。
視線を大量に向けられるのは少々ストレスが溜まるが、それでも会議なんて少し我慢していれば終わる。
作戦会議が再開してからゼルートに話を振られることはなく、今度こそ面倒事が起こることなく作戦会議は終了した。
そしてゼルートは会議室から抜けた後、ガレンに了承を取ってとある場所に向かった。
「姉さん、兄さん!」
「「ゼルート!!!」」
そう、今回の戦争に特別枠として生徒の中から参加するレイリアと、その生徒たちの護衛を行う新人冒険者のクライレットの元に訪れた。
「ゼルート、さっきの模擬戦観てたわよ! 相変わらず容赦ない良い戦いだったじゃない!!」
「有難う、姉さん」
レイリアの言葉通り、ゼルートの戦いぶりは内容を考えれば容赦ないものだった。
三人の力を全て受け流し、初級と中級魔法のみで圧倒し……最後は三人の股間にブレットを叩きこんだ。
模擬戦の内容を思い出した周囲の男達は思わず体が震えた。
「まぁ、良い戦いだったとは思うけど、あまりやり過ぎるのは良くないんじゃないか? 後から恨まれて報復されるかもしれないし」
「兄さんの言うことは間違ってないと思うけど、その時はその時で完全に潰すだけだよ」
二度とそんな気が起きらない様に潰すのか、それとも二度とそんなことが出来ない様にこの世から消すのか……それはその時のゼルートの気分次第。
相変わらず弟の底が知れないと思い、クライレットは苦笑いを浮かべた。
「まぁ、さっきの模擬戦のことなんてどうでも良くて、二人にこれを渡したくて来たんだ」
この場にはレイリアと同じく貴族の生徒がおり、簡単に片づけられる話ではないのだが……そんな赤の他人の思いを気にせず、ゼルートはアイテムバッグの中から二体の錬金獣を取り出した。
「はい。これを二人に渡したかったんだ」
「ゼルート、これって……」
「見間違いでなければ……錬金獣、か?」
クライレットとレイリアもゼルートが錬金獣といったゴーレムが超進化したような物を造れることは知っている。
なので、目の前に現れた六本の腕を持つ個体と刀剣を二本携帯し、マントを付けている個体が二体とも錬金獣だと直ぐに分かった。
「うん、そうだよ。俺、ここに来るまでホーリーパレスっていうダンジョンを攻略してたんだけど、そこで手に入れたモンスターの素材を使って造ったんだ」
「へ、へぇ~~~……そうなのね」
アイテムバッグの中から取り出された錬金獣を見て、二人が抱いた感情は……ただただ凄い。
ガレンが治める街を守っている錬金獣を始めてみた時もその凄さに驚かされたが、目の前の二体からゼルートがどれだけ本気で造ってくれたのかが解る。
「ゼルート……これは、その……俺たちの為、か?」
ゼルートは家族の為ならどんなことでもする。
どんなことでもは言い過ぎかもしれないが、絶対に死なないでほしい……そう思ってるのは知っている。
だから、ゼルートは今回の戦いで自分たちが死ぬかもしれない可能性を少しでも下げる為に、自分たちだけの錬金獣を造った。
兄だからこそ、姉だからこそ……家族だからこそ、その思いが直ぐに伝わった。
その気持ちは本当に嬉しい。
その感謝に嘘偽りはない。
ただ、それでも……二人にもこれまで積み重ねてきたものがある。
弟にだって負けないほど努力を重ねてきた。
まだ生まれたばかりの妹に誇れる兄に、姉になろうと努力し続けている。
(まぁ……そういう顔するよな)
ゼルートはなんとなくではあるが、二人が少し……不服そうな顔をすることが分かっていた。
こんな道具がなくても、俺たちは……私たちはこの戦争で生き残れる。
そんな思いが表情が伝わってきた。
二人がやわな鍛え方はしておらず、自信を持つだけの実力があるのも知っている。
でも……それでも、ゼルートが二人は心配する気持ちは抑えられない。
「それ、二人の魔力を流せば大丈夫だから。そんじゃ!!!」
「あっ、ちょ!!」
「おい、ゼルート!!」
二人が制止する声を無視し、ゼルートは自身のテントへと猛ダッシュで戻った。
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