少年期[704]適任者がいた

「……そうだ、そういえばそうだったな」


「どうしたの、ゼルート?」


「いや、裂土豪災を使うのに相応しい人物を思い出したんだよ」


ランク八のマジックアイテム、裂土豪災。

技術がない素人が持てば、仲間に怪我を負わせてしまうかもしれない危険な得物。


しかしその威力と性能は破格。

使わないのは大変勿体ないと三人とも思っていた。


「そんな人物、私たちの周りにいたかしら。もしかしてゼルートの知り合い?」


「知り合いじゃなくて仲間だな。今ここにはいないから二人とも忘れてるかもしれないけど、俺の従魔にはゲイルとラルにラーム。この三人以外にも、もう一人いるんだよ」


「……思い出した。確かオーガの亜種、ブラッドオーガのブラッソだったか?」


意外にもアレナより先にルウナがブラッソの存在を思い出した。


「その通り。アレナも覚えてるだろ」


「えぇ、完璧に思い出したわ。そうね……確かにブラッソであれば、問題無く扱えそうね」


通常のオーガよりも体が大きい亜種。

本来はAランクの魔物だが、ゼルートたちと一緒に鍛え続けた結果、Sランクに負けない強さを手に入れた唯一無二のオーガ。


そしてゲイルたちと同じく、人の言葉を喋るとても稀有な存在なのだ。

そこまで珍しい存在であれば、なんとしても自分の存在にしたいと考える愚か者が多少なりとも現れる者だが、ゼルートの活躍が広まっていることもあり、今のところ目立った愚か者は現れていない。


「あいつなら、裂土豪災を戦場で思う存分振るってくれると思うんだ。見た目以上に器用だから味方に被害を出してしまうこともないだろうしな」


「そうね……あの人なら、器用にこなせるでしょうね」


一度ゼルートの実家に寄った時、手合わせしたときの感覚を思い出す。


(オーガといえば基本的にオークと同じく、力任せに敵を叩き潰そうとする個体が多い。そんな中でも上位種になればある程度戦いの技術が身に付き、個体によっては同族を指揮するような個体まで現れる)


上の存在になればなるほど、細かい部分が上達していく。

それはそれなりに冒険者として活動してきたアレナも解っている。


だが、手合わせしたブラッソのそれはハッキリ言って異常だった。


(あの巨体で繊細な力加減や動きが出来るなんて、普通は思わないわよ。かといって、パワープレイが出来ないわけでもない)


ゼルートと長年一緒に行動してきた個体。

普通ではないと分かってはいるが、それでも手合わせの最中に驚かずにはいられなかった。


「戦争が始まる前には一回実家に寄るから、その時に渡そう。あと、どうせならこのマジックテントもセラル渡そう」


「本当に渡すのね……ゼルートが難易度が高いコロシアムをクリアして手に入れた報酬だから特に文句はないけど、甘やかすのもほどほどにしておきなさいよ」


「分かってる分かってる。俺はちょこっと出発準備を手伝うだけだから」


重要な宝箱を全て開け終えた後、道中で手に入れた他の宝箱も全て開けてしまい、手に入れたマジックアイテムなどは全てゼルートのアイテムバックやリングの中にしまわれた。


そして翌日、ゼルートたちは街一番の鍛冶師の鍛冶場へとやって来た。


「あっ、どうも皆さん。おはようございます」


「おはようございます」


鍛冶場に到着すると、ハーフドワーフのラムスが建物の周辺を掃除していた。


「オルガさんは起きてる?」


「はい、起きてますよ。今日はなんだか珍し早起きでした。あっ! ゼルートさんのお父さん用の聖剣、もう出来上がってますよ」


「おっ、それは嬉しい報告だな」


「師匠は渾身の出来だと言ってたので、絶対にゼルートさんのお父さんも納得する一品だと思います!!」


「名匠が渾身の出来と言った聖剣か……それは見るのが楽しみだな」


自分が装備するのではない。

それは分かっていても、いったいどんな聖剣が出来上がったのか……楽しみで仕方なかった。

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