少年期[702]最後の最後で

「この杖は、面倒事を解決する際に交渉する道具として使おうと思う。その時の為に、単なる高品質の杖……だけじゃなくて、戦争時に相手側に大ダメージを与えたって戦火があれば更に価値は上がるだろ」


「……なるほど、確かにそうね。良いアイデアじゃない! 冴えてるわね、ゼルート」


ランク八の杖というだけで価値は圧倒的に高いのだが、そこにゼルートが言った通り戦果を上げたという事実が付与されると、更に価値が上がる。


「結局俺たちが普段からつかうことはまず無いんだし、平和的に何かを解決する……もしくは誰かの協力を得る際の手札として有効活用する……ってのが俺の考えだ」


「アレナの言う通り、良いアイデアだな」


ゼルートはなまじ、他の戦闘職と比べて圧倒的な戦力を持つ。

その戦力は時に、権力すら意味をなさないほどの力がある。


そんな力をもってすれば、解決できない問題など無い……と思われるかもしれないが、あまり強引に解決するのは本意ではない。


暴力に頼らず解決出来る件であれば、持ってる手札を使って解決してしまうのが一番。


「という訳で、こいつは一応一回だけ使う」


アイテムバッグの中に群滅の聖杖をしまい、ようやく最後の宝箱を開ける。


「……ぶふっ! さ、最後の最後にこれか……」


宝箱を開けた瞬間、アレナとルウナも中に何が入ってるのか分かった。


「これは……あれだよな。俺たちにとっては本当に不必要な物だよな」


「え、えぇ……多分、そうね。残念ながらそういう判断になってしまうわね」


最後の最後に宝箱から現れたお宝は……なんとマジックテントであった。


外見はいたって普通の大きさだが、中の広さは見た目以上。

折りたたむことで小さくすることもでき、旅をする上で重宝されるマジックアイテムなのは間違いない。


ただ……ゼルートたちは既にそれを持っているのだ。

マジックテントに関してはゼルートの力で幾らでも製作が可能なので、本来ならば当たりといえるマジックアイテムなのだが、ゼルートたちにとってはハズレに該当する。


「…………すぅーーーーーー、とりあえず入ってみよう」


「そ、そうね。私たちが使わないとはいえ、やっぱり中がどんな感じなのかは気になるものね」


部屋の中にテントを出し、中に入るというなんともおかしな光景だと分かりつつも、三人はマジックテントの中へと入った。


「へぇ~~~~~、これはこれは……これをハズレと呼ぶのは失礼だったな」


「そう、ね。やっぱりマジックアイテムとしては高品質のようね」


部屋広さは二十畳ほどあり、現在ゼルートたちが泊っている部屋よりも圧倒的に広い。

そして中にはベッドが四つあり、ソファーとテーブルも置かれている。


「このキッチンも最高クラス、って感じだな」


料理を行うためのキッチンも完備されており、引き出しの中には調理器具も入っている。


「ふむ、丁度良い温度が保たれている様だな」


一年を通して安定した気温が保たれるようになっている。


さすがにトイレは置いていないが、なんとカーテン付きの風呂まで設置されており、野営中であれば至れ尽くせりな空間と言えるだろう。


「……これだけの設備があれば、そりゃランクも高いよな」


宝箱の中に入っていたマジックテントのランクは七。

裂土豪災と比べれば一つ下だが、アルバラスやミスリルデフォルロッドと同等のレア度を持つ、超一級マジックテント。


これまたオークションに出品すれば、参加者たちの熱が上がる。


マジックテントは冒険者や傭兵たちにこそ需要があると思われがちだが、一生自領で引き籠りながら生活するなんてことは、基本的にあり得ない。


自領から出て他の街に行く際、絶対に太陽が沈む前に街へ辿り着ける保証は無いので、こういった高品質なマジックテントは貴族たちにとっても喉から手が出るほど欲しいアイテムなのだ。

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