少年期[635]バキバキからのサラサラ
突然投げかけられた言葉に対し、まともに反応が出来なかったアルゼルガ。
だが、直ぐに何を言われたのかを理解した。
「それは……俺と模擬戦をする、ということで合っているか?」
「別に模擬戦っていうほど、しっかりした内容じゃなくても良い。軽く運動しようってだけだ。どうだ、やるか?」
特に強制するつもりはない。
この提案について、せっかくそっちの依頼を受けてやったんだから俺の要求を飲めよ、とは思っていない。
しかし会話を聞いていたルーキーたちの中には、もしかしたら我らがアルゼルガさんなら勝てるのではと思い、キラキラとした期待の眼差しを向けている者もいた。
(どういった考えを持った上での提案だ? ここで俺が完膚なきまでに負ければ銀獅子の皇の評判が下がるかもしれないが……そういったことを望んでいる様には思えない)
事実、ゼルートは銀獅子の皇の評判を下げようなんて、全く考えていない。
消化不良ゆえの提案。
断られても、それはそれで仕方ないと思っている。
(……新人たちが見ている前で、俺が逃げる訳にはいかないか)
自身の面子もあり、ゼルートからの提案を受けることにした。
「分かった。では、ルールはどうする?」
「別にガチでやりたいって訳じゃないんで、そうだな……時間は一分だけ。スキルは使わない。ただ、扱う武器は真剣。そんな感じでどうだ?」
「……了承した」
「サンキュー。なら、楽しくやろっか」
二人のも軽い短時間の模擬戦が決まり、ゼルートはアイテムリングから一本の槍を取り出した。
「……槍も、使えるのか?」
「一応な。これでも武芸百般!! なんだぜ」
取り出した槍はダンジョンの宝箱から手に入れた雷槍、ラグルス。
ランクはフロストグレイブと同じく六。
ゼルートにとってはそれなりに使える武器と認めている。
「まっ、基本的に接近戦ではロングソードと五体で戦ってるけど、子供の頃から武器は色んな奴を使ってたからな。大剣や短剣、手斧に大斧、ハルバードとか色々とな」
「随分と、多忙な日々を送っていたんだな」
「あっ、半分信じてないだろ。貴族の次男坊だから、暇な時間はいくらでもあったから、訓練と実戦だけはかなり積んでたんだぞ」
言い終わるなり、その場で演武を始めた。
武器を扱う者たちは一目で、再び解ってしまった……自分たちとは次元の違う力を持っているのだと。
そして槍を専門的に扱う者たちは、自分よりも歳下のゼルートは一級のプロの様な動きを見て、何故こうも自分とゼルートに大きな差があるのだと悔しさを滲ませていた。
(……本当に化け物だな。メインの武器以外にも、サブの武器があるとは思っていたが……ここまでレベルが高いとはな)
演武の時間はたった三十秒程度。
ただ、ゼルートがやりも扱えると知らしめるには、十分な時間だった。
「どうだ、それなりにやれるだろ」
「……そうだな。改めて規格外だと解った。それでは……始めようか」
「よし、それじゃ開始の合図は……コイントスにしよう」
軽く動きたいだけ。
マジな膠着状態の時間なんて必要ない……それは二人共分っているが、強者であればあるほど相手の出方を見ようとする。
そんな考えを消す為に、わざわざ開始と同時に動きやすい合図を用意した。
「本当に軽く動くだけだ、楽しもうぜ」
「あぁ……そうだな」
ゼルートの手からコインが弾かれ、ゆっくりと弧を描き……地面に落ちた。
硬貨と地面がぶつかり、音が訓練場に響き渡った瞬間に両者は動き出した。
「……す、すげぇ」
「なんだよ、これ」
「後衛職が敵わない訳ね」
一分間……二人が行った模擬戦はルーキーたちのバキバキに折れたプライドを砂の様に粉々にした。
(準備運動を見て解っていたことだが、本当に上手い)
突きのタイミング、鋭さ。
払いの威力と切り返し。柄を使った打撃。
完璧に槍の使い方を熟知している。
(はっはっは!! 流石Aランクのランサーだな。身体強化なしの模擬戦でも十分に楽しいな!!!)
熱くなり過ぎないように一分間という時間に抑えたが、ゼルートの消化不良はスッキリ解消された。
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