少年期[630]そこまで疲れていない
「それは……どういう意味だ?」
「そのままの意味だ。俺たちのクランに来れば問題はない」
「……つまり、お前たちのクランに訓練場があるってことか?」
「そういうことだ。俺たちクラスのクランになれば、クランハウスに訓練場があるのは珍しくない」
嘘ではなく、事実だ。
銀獅子の皇レベルのクランになれば、クランハウスに訓練場や大浴場、プールまで付いてるクランハウスもある。
(クランハウスに訓練場があるのか……どんだけバカデカいクランハウスなんだ?)
念の為、もう一度確認する。
「それはマジなのか」
「あぁ、マジだ。広さは問題無い。模擬戦用に使う武器も多く置かれている」
「……儲かってるんだな」
「戦力で言えばそちらに負けるが、これでも大手のクランだからな。それでは、今から来てくれるということで良いんだな」
「あぁ、勿論だ。キッチリと報酬は頂く訳だしな……なぁ、ついでに昼食も食って良いか?」
数秒ほど考え込み、アルゼルガは直ぐに首を縦に振った。
「それぐらいは俺の懐から出そう」
クランの総資金を考えれば金貨五十枚ぐらいは大した金ではないが、一日で……しかも一人の冒険者に使う金だと考えると、それなりに高い金額。
ゼルートの昼飯ぐらいは自分の懐から出そうと決めた。
「ゼルート、私たちは付いて行かなくても大丈夫そう?」
「大丈夫だ。二人はのんびり休んでいてくれ」
一応今日は休日なのだ。
明日から再びダンジョンの下層に転移し、六十階層のボスを倒して聖魔石を手に入れることに精を出す。
「……もしかしてだが、また明日にはダンジョンに潜るのか?」
ゼルートたちが先日ダンジョンから戻ってきたという情報は得ている。
普通の冒険者……アルゼルガたちでも数日は休む。
ただ、ゼルートとアレナの会話から察するに、明日には再び潜るように思えた。
「よく分かったな。依頼を受けててな、物を手に入れるにはさっさと攻略しないといけないんだよ」
「だとしても休息は一日だけか……体の疲れは抜けているのか? 溜まり続ければ魔物に隙を突かれるぞ」
今でこそあまり無茶をしていないが、まだ駆け出しに近い頃は何度も無茶をしていた。
そして疲労感が溜まり続け、重傷を負いそうになったことが何度もあった。
「それはそうかもしれないな。でも、俺たちはあんたが思ってるよりも快適な状態で探索を続けている。俺の情報は、ある程度手に入れてるんだろ」
「……そうだったな。本当に羨ましい限りだ」
「はっはっは! それに関しては運が良かったとしか言えないけどな」
容量が無限。亜空間の中では時間が完全に止まっている。
そんなアイテムバッグとアイテムリングを持つゼルートを羨む者は星の数ほどいる。
だが、本人の言葉通り本当に運が良かったとしか言いようがない。
ゼルートが圧倒的に優れた魔法の才能を持っていた。
その才能がなければ造れなかった。
「それに、寝る時はゲイルたちに守ってもらっているからな」
「あの従魔たちがか……それは安心して眠れそうだな」
良く覚えている。
ゼルートの従魔は合計三体いるが、どれも底知れない力を有している。
(あれほどの力を持つ従魔が三体……それだけでも恐ろしい戦力だと言うのに、本人がソロでSランクの魔物を倒してしまうときた。もしかしたらだが、一つのパーティーで国を相手に出来そうだな)
流石にそれは冗談だろ。
そんなツッコミが入りそうな考えだが、事実としては間違っていない。
ゼルートたちの戦力は確かに規格外だ。
大手のクランと比べて同等、もしくはそれ以上の力を有している。
だが、ゼルートたちと対戦する相手にとって脅威になる存在は、錬金獣たちだ。
最近はあまり造っていないが、ゼルートの相手バッグとリングには大量の素材や魔石が溜まっている。
そろそろ新しい錬金獣を造るのもありだと思っており、更に戦力が増してしまう。
「そういう訳だから、休息は一日で十分なんだよ」
「そうか……それなら、何故今日の件を断らなかったんだ? せっかくの休息日なのだろ」
「ん? まぁ、そうだけど……ジッとしててもつまらないからな。軽く体を動かすのもありだと思うし」
「魔法だけではなく、スタミナの量も恐ろしいな。こちらから模擬戦をして欲しいと頼んでおいてあれだが、あまり泣かせないでやってくれよ」
「しっかりと手加減はする。だが、泣くか泣かないかそいつらの精神力次第だ」
死なないように手加減はするつもりだが、泣かないように手加減するのは無理な注文だった。
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