少年期[627]装備しただけなのに勘違い

「というか、ボス部屋にいるエボルサーペントだから、揃えた戦力で勝てるかどうかも不安になるよな」


ギルドから冒険者にエボルサーペントに挑む際は、必ず討伐出来る戦力で挑んでくれと頼んでいる。

Bランク状態のエボルサーペントであれば、しっかりと雷攻撃に対する準備をしていれば、多少の犠牲は出ても倒すことが出来る。


「ゼルートの言う通りね。基本的にはAランク状態を予想して挑むものだけど……偶に武器だけAランク並みの物を揃えても、それを扱う人のランクが低い場合もある」


「五十階層まで降りるにはそれなりの実力が必要だと思うけど……マジックアイテムを使えば被害と戦闘を抑えて降りれる、か。そんで無理して挑んだ結果、大爆死と」


「そうなるわね。でも、戦う相手の力量が低いと進化しない場合もあるの」


「それ相応の戦闘経験が必要だからか。それを考えると、一つ後ろのパーティーはエボルサーペントが多少傷付いた状態から戦闘開始……幸運にも、楽に倒せる状況になるって訳か」


規模が大きいダンジョンからは、高品質のマジックアイテムがよく手に入る。

中には魔物との戦闘を避ける為のマジックアイテムもあり、実力が低い者でも下層に挑むことが出来る。


「実力が低いのにエボルサーペントに挑むなど、自ら死へ向かうのと変わらないだろ」


「高品質の装備を身に着ければ、自分の実力が上がったと勘違うしてしまうものなのよ。偶々ダンジョンの内の宝箱から手に入れた魔剣や魔槍を身に着け、調子に乗った冒険者が直ぐに死んでしまうなんて話は、そんなに珍しくないのよ」


アレナの例え話が耳に入った冒険者たちは同意するように頷いていた。


高品質の装備を手に入れれば、確かに装備する前よりも戦力は上がる。

だが、決して本人の戦力が上がった訳ではない。


装備している物が防具やアクセサリーな常時身に着けているので効果が持続するが、武器であれば手放した瞬間に付与効果が消える。


「マジックアイテムを身に着けて実力が上がったイコール、自身の身体能力が上がった……なんて勘違いをする馬鹿もいるの」


「なんじゃそりゃ。流石にそれはちょっと馬鹿過ぎないか? そういうマジックアイテムを身に着けてるなら解るけど、そうじゃない切れ味上昇とかスタミナ上昇、脚力強化とか単一効果で全ての身体能力が上がる訳ないだろ」


「……あれじゃないのか、脳みそまで筋肉という奴じゃないのか? それともいつもより戦闘が上手くいき過ぎてハイになっていたとか……とりあえず馬鹿ということに変わりないと思うが」


三人の無意識に飛ばした矢が容赦なく周囲の客に降り注ぐ。


ゼルートたちの会話に耳を傾けていなければ耳に入る声ではないのだが、エボルサーペントを討伐したなどの内容を話していれば、嫌でも意識してしまう。

その結果、いきなり流れ弾が飛んで来て黒歴史を抉られた客は少なくなかった。


「まっ、何にしてもエボルサーペントはどんな敵が相手でも戦えば進化する訳じゃないってことだな」


「そういうことよ。でも……あのボス部屋で帰還石か使えないって考えるとゾッとするわ」


「あぁ~~、それはそうかもな。入ったら明らかに想像していた強さよりも更に強化されてたら逃げ出したくなるもんな」


ダンジョンのどの場所でも基本的に帰還石は使用出来るが、稀に特定のボス部屋や転移系の罠に引っ掛かった際に飛ばされる部屋など……極限られた場所では帰還石が使えなくなる。


そんな場所で予想外の強さを魔物と戦わなければならない……絶望でしかない状況だろう。


「いつも通り戦えて、被害が少なかったら心から焦りは消えるけど、事前に解っていても帰還石が使えないボス戦ほど焦る状況は考えられない」


「リアルに死神の鎌が首筋に添えられている状況、って感じか」


「的確な表現ね」


今でも思い出すと背筋が凍る。


ボス部屋の魔物は、総じて強い。

勿論挑むダンジョンのレベルによっては余裕という場合もあるが、自分たちの実力に見合うダンジョンに潜れば、それ相応のボスが待ち構えている。


冒険者としてそのボスは乗り越えるべき壁だが、絶対に逃げ切れない。

その状況がパフォーマンスを鈍らせる。


普段の実力が発揮出来ずに殺された冒険者は少なくない。


「このパーティーならそんな心配をする必要はなさそうだけどね」


ソロでSランクの魔物を倒せるリーダーが存在する時点で、帰還石使用不可の状況など、ビビる必要は全くなかった。

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