少年期[593]即完売
「な、なぁ。金払うから俺達にもその料理を分けてくれないか」
「……オムライスはないけど、肉と野菜炒めなら良いぞ」
「そ、そうか。ちょっと待ってくれ」
ゼルートに話しかけた男は財布から金貨を一枚取り出して渡した。
金貨一枚は日本円に換算すれば百万円の価値がある。
「これで四人分を貰ってもいいか」
「良いけど……まぁ、良いや。はい、自由に持っていって良いよ」
既に自分達の分は取り皿に分けているので、ゼルートは大きめの更に乗せている料理を男の目の前に置く。
男は直ぐに仲間に交渉が成功したと伝え、残りの三人もゼルートの元にやって来て感謝の言葉を述べ、元の位置へ戻って行った。
それを見て他の冒険者達もゼルートに料理を貰おうかと考えたが、既に料理のあまりは残っていなかった。
金を払うから自分達の為に料理を作ってくれたお願いする手もあるのだが、あんまり満腹になり過ぎると眠くなってしまう。
これから始まるボス戦までの時間を考えるとあまりがっつり食べるのは宜しくない。
結局ゼルート達に料理を求めたのは一パーティーだけだった。
「こんな料理に金貨一枚……流石に高過ぎるよな」
「何度も言うけど、状況によるのよ。肉は何とかなるかもしれないけど、大半の冒険者は香辛料なんて常備してない筈よ。高いし」
「……確かにちょっと高いよな」
冒険者が手を出すには少々お値段が高い。
だが、ゼルートの創造にかかれば魔力を消費するだけで大量の香辛料が手に入る。
(簡単に作った料理だけある程度美味いのは確かだし……ダンジョンの中って考えれば金貨一枚の価値はあるか)
料理のスキルを持っていれば作った料理の味が多少なりとも変わってくる。
ゼルートはプロほど何百、何千と料理を作ってきたわけではないので決してスキルレベルは高くないが、下手な人よりは上手く作れる。
「ゼルートの所持金を考えれば大した額ではないだろう。地上に戻ればま売るのだろう」
「持っていても意味無い……とは言わないが、いつ使うかも分からない物を入れておくのもあれだからな」
ダンジョンから地上に戻る度にギルドで小分けしながら素材を売る。
その量が量なので、一回の換金額が尋常ではない。
「それもそうか。それはそうと……目の前の連中達はどれだけ突破出来ると思う」
「……ここまで降りてきてるだけあって弱くはない。ただ、全員が無事に突破出来るかは話が変わってくるんじゃないか?」
四十階層はまぐれで降りられる階層では無い。
実力と技術、知識がなければここまで無事に降りられない……ゼルートが知らないだけで無事では無いかもしれないが、目前のパーティー達に暗い感情はみえない。
(暗い感情が現れるとしたら、ボス戦の後かもな)
ギルドから情報を買う、もしくは既に四十層のボスを攻略した冒険者からボスの情報を仕入れていれば対策を立てられ、時間は掛かっても安全にボス戦を進められる。
だが、ここまで降りてくれば敵の力を圧倒的に上回っていない限り、情報を知らずに勝てるほどボスは甘くない。
(……もしかしたら、全滅するパーティーがあるかもな)
一つのミスが命取りになる戦い。
それがボス戦だ。
明らかにな過剰戦力を持つゼルート達もしっかりとボスの情報は得ている。
ただ、そんなゼルート達でも一つ前のボス戦の魔物は完全に予想外だった。
次もああいった感じの予想外が目の前に現れるかもしれない、そう思ったがよくよく考えればそれはそれで不幸なのかと思ってしまう。
(リビングデットナイトとリザードの上位種がソウルコネクトまで使うとか、Cランクのパーティーが最低でも二つはないと勝てないような敵だったよな。またあんなに遭遇したらアレナが大きなため息をつきそうだ)
四十階層のボスであれば通常時と違って多少戦力アップしていても、六人なら無事に余裕で倒せる。
だが、ゼルートもあんまりそういった件が続くのは宜しくないと思い始めた。
「まっ、俺は四十階層のボスより五十階層のボスの方が気になるけどな」
「五十階層のボスって……よく考えればどんな状況で大丈夫そうね」
五十階層のボスは進化する蛇と言われているエボルサーペント。
仮に冒険者を食い続けてBランクの冒険者でも手に負えない個体になったら……それは一応心配に思うが、自分達が遭遇する分には問題無い。
そう思ったアレナはやはり徐々に常識が壊れてきていた。
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