少年期[591]買い取りも出来る
「さて……やって来たな」
思いがけず少々厄介な恋愛事情に首を突っ込んだゼルート達はその後も順調に足を進め、四十階層のボス部屋の前に辿り着いた。
しかしそこにはゼルート達が予想していたよりも人が多く、五組ものパーティーが待機していた。
「……うん、ちょっと人が多いな」
「そうね。タイミングが悪かったみたいね」
ゼルートよりもダンジョンに潜ったことがある経験が多いアレナだが、ボス部屋の前に五組並んでいるのは珍しい。
ただ、この順番を覆す方法もある。
「ゼルート、どうするの? 使えば前に行くことも可能よ」
「使うって……あぁ、なるほどね」
何を使うのか、それをゼルートは直ぐに理解した。
順番をお金で買い取る。
四十階層のボス部屋の前に並ぶ冒険者達はそれなりにランクが高く、中にはBランクの冒険者も存在する。
順番を金で買い取るにはそれ相応の金が必要になる。
最悪、ボス戦を終えて得られる利益が下回り、赤字になる可能性もある。
(ぶっちゃけ順番を買い取るのは一番先頭に並んでいるパーティーだけで十分なのだけど……それをやると残りの四つのパーティーから絶対にブーイングが飛んで来るのよね)
売られて喧嘩は買うが、自らは基本的に売らないスタイルのゼルートには合わない方法だ。
戦闘のパーティーだけ買収した場合、四つのパーティーから襲われる可能性だってある。
(……全員がボコボコに潰されるイメージしか湧かないわね)
四つのパーティーは合計で二十人弱。一人テイマーもいるのでそれなりの戦力ではあるが、少々本気を出したゼルート達にとっては丁度良い訓練相手にしかならない。
「……いや、別に良いや」
「そうなの? 一応受けている依頼的には急いだほうが良いと思うけど」
「それはそうかもしれないけど、どうせ三時間も掛からずに終わるだろ。もっと短く終わる可能性だってある。丸一日無駄にするわけじゃないんだから大した問題じゃない」
「そう、ね……ゼルートが決めたなら私は何も言わないわ」
ゼルートがここまで辿り着くのに二週間も掛かっていない。
圧倒的な速さで下っており、約束の二か月後にはまだまだ時間がある。
だが、アレナとしては少々不安が残っている。
(聖魔石はボスを倒したからってそう簡単には手に入らない超レアアイテム……本当に大丈夫かしら?)
ゼルートや自分達の実力を考えればボスを倒すのは問題無いと思っている。
しかし聖魔石の入手に必要なのは実欲に加えて運。
運というのは望んで手に入れられるものではない……だったのだが、アレナは仲間のある能力を思い出した。
(ふ、ふふふ。そうね、あれがあったわね。あれがあるな私がこんなことを悩む必要も無いわね)
ゼルートの存在も超反則だが、パーティー内にはもう一人、超反則的な仲間がいた。
「そんじゃ……ルウナ、軽く運動しようか。それが終わったら軽く飯にしよう」
「ん? 別に構わないが…………そういう事か。解かった、良いぞ」
何故ゼルートが自分に軽く運動しようと誘ってきたのか、理由が何となくではあるが勘付いた。
(ゼルートもなんだかんだ言って嘗められるのは嫌いだからな)
後ろから現れた自分達と同じくボスの討伐に挑む同業者。
そいつらは自分達とは色々と違う異色なパーティー。
しかしその中に見た目は明らかに不釣り合いな子供が混ざっていた。
子供がこんな場所に来て何をするつもりだ。遊びたいなら上層で遊んでいろと口に出さずとも心の中で思っている者はいる。
この階層に降りて来る冒険者ともなればゼルートの見た目と異なる雰囲気を察する冒険者も増えるのだが、中にはその違和感すら感じられない未熟者も残念ながら存在する。
「ゼルート、どれぐらい動く?」
「そうだなぁ……時間はまだまだある。とりあえず十分ぐらい動こう」
時間を計ってもらう為にゼルートはアイテムリングの中から懐中時計を取り出し、アレナに渡した。
「使うのは体術だけよね」
「あぁ、勿論だ。あんまり色々と使ったら周囲に迷惑が掛かるからな」
(体術だけでもそれなりにヤバいと思うのだけど……良しとしましょう)
そして二人の運動に合図はなく、アレナの手に懐中時計が渡ってから数秒で両者は駆け出した。
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