少年期[538]知らなかった二つ名候補

「……ゼルート、悪い意味で重力の魔力が働いてるんじゃないの?」


「否定出来無いな。でも、流石に放っておけるような代物じゃ無かったからな」


アレナ達と合流し、そこで見つけた短剣の話をするとアレナは呆れた表情になって大きなため息を吐いた。


「確かにそれは街に届けておいた方が良いのは確かよ。けど、それをゼルートが見つけてしまうっていうのが……なんかもう、運命じゃないかしら?」


「嫌な運命だな。とりあえず、クリーワイトに着いたらそこの領主に頼むよ」


自分で持っていくのは面倒。

それに今ゼルート達はバジル・ラーガスからの依頼を受けている。


手に入れる素材の入手困難さを考えれば、他の事に構っている時間は無い。


(ただでさえ聖魔鋼は手に入りずらい素材なんだし、他の街に行ってる余裕は無いんだよな)


もしかしたらお礼として聖魔鋼が手に入るかもしれない。

そんな事を一瞬考えたが、さすがにそんな運が良い出来事は起こらないだろうと考え直す。


(それに聖魔鋼だけじゃなくてエボルサーペントの素材も必要なんだ。聖魔鋼だけが手に入っても意味無い)


その他のに必要な鉱石を手に入れる為にホーリーパレスで全て素材を手に入れてしまう。

もう一度気合を入れるゼルート。


そしてその後は魔物に襲撃することもあったが、無事にクリーワイトに到着。

そこで街中に入る前に門兵に盗賊団の頭の首を見せる。

するとゼルートから説明を受けた門兵は直ぐに鑑定を使える者を呼び、生首が本当に盗賊団のものかを確認。


確認が無事終了し、ギルドが決めていたい報奨金を門兵が用意しようとするが、一旦待ってくれと引き留める。

アイテムバッグの中から本命の箱とその中に入っていた短剣を見せる。


すると自分では判断することが不可能だと思った門兵は兵士長にこの事を伝える。

そして兵士長はその短剣を見ると心底驚いた表情になり、ゼルート達を個室に案内する。


「すまないな、わざわざ移動してもらって」


「いいや、あれはあんまり一般人に知られない方が良い代物だろう。場所を変えるのは賢明な判断だ」


「そう言ってくれると助かるよ。戦鬼覇王」


「……まて、その戦鬼覇王ってのはなんだ?」


ゼルートの疑問に兵士長は首を傾げながら答える。


「知らないのか? 悪獣をソロで倒した君の二つ名候補だ」


全く知らなかったその事実にゼルートは先程の兵士長以上に驚いた顔になる。


「……いつのまにそんなのが広まっているんだ」


「いや、正確に決まったわけでは無いが、有力な二つ名候補が戦鬼覇王だそうだ」


「……俺は鬼でも王族でも無いんだが」


「それは見れば解かる。ただ、悪獣との戦いを遠目から見ていた者達からは君に戦う姿が鬼人族が暴れまわる様な姿と重なったらしい。そしてある者は君の後ろ姿に王の姿を感じた。戦う王……つまりは戦王だね」


(……いや、何がつまりなんだ???)


普段なら理解出来る内容も、今のゼルートには理解出来ない。

思考が停止してしまうのをギリギリ抑えている。


(いや、戦鬼覇王って……俺魔法の方が得意なんだよ? なのに戦鬼覇王っておかしくない?? 悪獣との戦いでも攻撃魔法は使ってた筈だし……いや、確かに接近戦の方がメインで戦っていたか???)


「ゼルート、戻って来なさい。冒険者の仕事上の二つ名ってのは本人とギルドに決定権があるのよ。だから戦鬼覇王があなたの二つなって決まった訳じゃ無いのよ」


「そ、そうか……そうだよな。わるい、この短剣について話しを戻す。単刀直入に言えば、この短剣はそちらから持ち主に返して欲しい」


「もちろん、責任を持って届けよう。しかし、自ら届けなくても良いのかい? そうずれば必ず礼が貰える筈だが……いや、そうでも無くても礼は届けられるだろう」


「……それって俺の名を伝えるるもりか?」


できることならそれは避けたいゼルート。

だが、その期待を裏切るように兵士長は首を横に振る。


「流石に相手が相手だ。名を伝えない訳にはいかない」


「そうか……分かった。それじゃ、宜しく頼むよ」


色々と諦めた表情をしながらゼルートは部屋から出た。

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