少年期[486]地面を潰さず
「・・・・・・一番簡単な方法は、実力を示すのが手っ取り早いわね」
「つまり、貴族のボンボンをぶっ飛ばせば良いってことか?」
「ま、まぁ……早い話そういう事ね。出来れば、実力の差はハッキリと分からせながらも無傷の方が良いのでしょうけど」
「それはあれじゃ無いですか。与える恐怖が中途半端になるんで後から面倒な絡みがあるかもしれないじゃないですか」
ゼルートが言いたい事も解らなくはないシーリアスだが、それでも個人的には……立場ある者としては重傷を負わせないで欲しいの本音。
(確かに、心に刻むような恐怖を与えればそいつは戦争中に後ろからゼルート達を襲おうなんて思わないでしょうけど、そのボンボンの家がどういった対応を取るかまではその時になってみないと分からないのよね。それに……ガルスも私と考えは同じでしょうし)
貴族としてそこそこの位置に立っているガルス・マーレン。
だが、それでも事を構えたくない貴族というのは少なからずいる。
「ゼルートの言う通りかもしれないけど、なるべく傷を負わせないで欲しいわ。それで、話を戻すけれどゼルートは確か剣術や体術より魔法の方が得意なのよね。それなら敵を一掃出来そうな魔法とか扱えるかしら?」
「……まぁ、広範囲の攻撃魔法とか扱えますよ」
一つの属性魔法を極めきれる程の才は無いが、それでも一般の者達が呼ぶ天才のラインを超えた才は持っているので、当然広範囲の攻撃魔法が扱える。
ただ、ゼルートの恐ろしいところはそれらすらも無詠唱で唱えられるところだ。
(広範囲の攻撃魔法かぁ……出来れば地上で戦う人達の為にもあんまり地形をぶっ壊す様な魔法は使わない方が良いよな。でも、大概は地面に結構穴を空けたりしそうだし……風や雷が一番妥当か? 後は闇や光もいけるけど……今回は止めておこう)
火は地面を熔かし、水は地面を濡らし、土は地面を見事に破壊する。
なのでゼルートは比較的地面を壊さない様な風と雷を使うと考える。
(……待てよ、どうせなら俺だけじゃなくてゲイルとラルとラームの技も加えて超広範囲の魔法でも使えば一気にこっちが有利になるよな)
「ぜ、ゼルート。何かよからぬ事を考えてない?」
「? なんでそう思うんですか???」
「だって……あなた、今物凄く危ない笑みを浮かべていたわよ」
「ギルドマスターの言う通りね。また何かとんでもない事をやるつもりなの?」
「私はその何かを是非見てみたいから賛成するぞ」
マッドサイエンティストの様な笑みを浮かべていたゼルートにシーリアスとアレナは若干嫌な予感がしたが、ルウナは寧ろゼルートの考える何かを見てみたいとワクワクしている。
「とりあえず、その広範囲の攻撃魔法も期待していてください。それと、仮に貴族のボンボンと戦う事になったら重傷は負わせないようにします」
「頼んだわ。出来れば、戦争に参戦出来る状態にしておいてね」
「善処するよ。それで、もう一つ聞きたいことがあるんだけど良いかな」
「えぇ、答えられる内容なら答えるわ」
ゼルートが権力、立場のある人間に聞きたい内容。
あまり予想出来ない内容だが、それでもシーリアスは機密に近い内容に関して話すことは出来ない。
だが、ゼルートが聞きたかった内容はシーリアスが予想していたよりもそこまでぶっ飛んだ内容では無かった。
「そこそこ大きなオークションが開催される街を知りたいんだ」
「オークション……そ、それは別に構わないけど、どうして急に?」
「結構金に余裕があるんで。後、またあれを売るのも良いかなと思って」
「・・・・・・あぁーーーー、あれね。でも、あんまり無理過ぎるとそれはそれで面倒な連中に目を付けられると思うのだけど……まぁ、その辺りは大丈夫でしょう。そうねぇ……時期が近い場所だとゴージャルかしら。ドーウルスからだと最低でも一週間以上は掛かるのだけれど……ゼルートなら三日程度で着きそうね」
「自分のやり方を真似れば、誰だって移動速度が上がりますよ」
「そうね、私も今度試してみるわ。それと、ゴージャルまでの簡単な道と辿り着くまで通る街の名前を書いて渡すわ」
「ありがとうございます」
ゼルートの二つ目の聞きたい事は一つ目と比べて何事も無く終わった。
シーリアスとしてはその結果は意外なものだったが、それでも心労になる内容ではなかったので良しと思った。
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