少年期[395]良い経験が出来た
懐に入り込んだゼルートのフックがシーナの横っ腹に決まる。
受ける前提では無い状態で喰らったフックにシーナはそのまま飛ばされてしまう。
「がっ、は!! はぁ、はぁ、はぁ、長剣が、メインって訳じゃ無いのは解っていたけど、まさか魔法じゃく素手で戦う、とはね」
「武器が魔力が無い状態の時に残された術は自身の五体での攻撃だろ」
会話を続けながらゼルートのジャブがシーナに襲い掛かる。
槍での防御は無理だと判断したシーナはまだ多少の余裕はある脚を使って回避に徹する。
空を切り、その音から鋭利な刃物をイメージさせるジャブに、鉄を軽々と突き破るストレートが、顎を撃ち抜けば頭を胴体から切り離しても可笑しくない程の威力を持つアッパーが絶え間なくシーナに襲い掛かる。
ゼルートの戦い方が変わった時点でシーナは自信が持つ槍を場外に投げ捨てた。
(冗談の様な存在ね。剣の腕だって悪くない。教科書に沿わない実戦で手に入れた形、そして今も体術で速さを限界まで上げた私を容易に追い詰めている。それに情報では爵位が上の貴族の子供を魔法でボコボコにした)
完全に欠点が無いゼルートに畏怖する感じるシーナ。
だが、強獣の精鋭のDランク代表として大勢の観客がいる前で負ける訳には行かない。
残りの魔力残量を確認し、勝負に出る。
「はああああああああッ!!!!!!!」
強化した脚力を活かして左腕でゼルートの右ストレートをガードして回し蹴りを放つ。
それをゼルートは左手の甲で受け止める。
そこからはお互いの攻撃を受け止め、逆にやり返し、更に受け止めて。
鈍い音はしないが、それでも体と体がぶつかり合う激しい音がリングに響く。
「セヤッッッ!!!!!!」
中心線を狙っての二段蹴り。
「シッ!!!」
それを両手で弾き、バク転の要領で蹴りを放つ。
「ッ!! せい、ヤッ!!!!」
下から迫る蹴りにタイミングを合わせて踏み台にして跳躍。
そして下段蹴りによる魔力の槍が放たれる。
(今のにタイミングを合わせるかよ!!! こういった状態だからは解らないけど、スゲェーーーー動きが見えてるみたいだな。んで、最後に蹴りで放たれた炎の槍かッ!!!!!)
炎槍の大きさから残りの魔力を全て注ぎ込んで放った蹴りだと解り、ゼルートも右手に炎を纏う。
「オッ!! ラアアアアッ―――!!!!!!!」
地面を蹴り上げがら放たれたアッパーはシーナの最後にして渾身の一撃を上空へ殴り飛ばした。
(今のを一発で弾き飛ばしますか。自分で言うのもなんですが、かなり良い一撃だと思ったんですけどね)
全ての魔力を使い果たし、地面に足があと少しで着くというタイミングでゼルートが右拳を引いて待ち構えている。
シーナの立場をあまり解っていない者からすれば、ゼルートは魔力を尽きた相手の追い打ちをする性格の悪い奴だ。そう思う者もいるかもしれない。
だが、ゼルートの眼から悪意は一切感じず、真剣な眼なのは変わらない。
(こちらの立場を考えてくれるとは、本当に優しい冒険者だ)
最後の一撃の意図は解る。
しかし無防備な状態で喰らう訳にはいかないので、シーナは腕を体の前でクロスして攻撃に備える。
そしてシーナの両足が地面に着いてから約一秒後にゼルートの右拳が、体術スキルで習得出来る技の一つである崩拳が炸裂する。
一秒という時間の間にシーナは地面を踏みしめ、崩拳に対するガードの態勢は整えられた。
だがそれで容易に止まる一撃では無く、崩拳を喰らったシーナの体は遥か後方へ吹き飛び、リングがはみだしてしまう。
宙を飛び続けるシーナはギリギリ壁にぶつかる事無く地面に着地。
ただその状態からシーナは既に走る体力すら残っていない。
(上には上がいる。良い経験が出来た)
事前に決めていたルールには両者が戦闘不能になるか降参の意思を示すか、それともリング外に落ちてしまう。
その三つの敗北条件が決められていた。
「そこまで!!!! 勝者、ゼルート・ゲインルート!!!!」
審判の勝利宣言から一拍置き、生徒達のテンションが最高潮に達して怒号に近い歓声が上がった。
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