少年期[359]怒鳴らないって余計に怖い

ダンに怒鳴り散らしたゼルートは早足で宿へと戻り、ベットへダイブする。


「・・・・・・はぁーーーー。俺みたいなガキが何を説教垂れてるんだって話だろうな」


今回の護衛の中で実力は一番高くとも、冒険者歴はルウナと同様に一番短く、一番年齢が低い。

そんな者から上から目線で説教されて何か心にくるのか?


ゼルートはただ苛立ちだけが募るだろうと思う。

ゼルート自身もそんな立場の者から説教垂られたら「何様のつもりだてめぇはッ――!!!」と逆ギレする自信がある。


「それでも、今回の仕事は生徒を守る事だろう。歳は生徒達の方が下だとしても、冒険者歴で言えばお前の方が上なんだぞダン」


冒険者として先輩にあたる者が冒険者に成る為に勉強中の者の手本になる行動を取れなくてどうする。

ゼルートも模範的なるような行動をしてるとは思っておらず、自分がそういう事を出来るとも思っていない。


それでも数カ月とはいえ冒険者として活動しているので、魔物の解体や倒し方。貴族の護衛任務の時は何を気を付けたらいい等、休憩の合間に教えたりしている。


(まぁ、俺の場合は少し例外的な流れだったから第三者からみたらこうした方が良いだろうって意見だけどな)


ダンはそんな事を生徒達に話して教えていたのか? ダンの方が自分より冒険者として多くの経験を積んでいるとゼルートは確信している。


戦いの経験だけなら自身の方が上、でも冒険者らしい経験で言えば護衛や採集に討伐等の依頼をグレイス達と共に受けている。だから伝えられる経験も自分より多く持っている。


「・・・・・・今のダンにそんな余裕はないか」


「随分と気分が沈んでるわね」


「アレナか。悪いな、先に早足で宿に戻って」


ゼルートが早足で仲間を置いて先に宿まで戻ってきてしまったと分ったのは宿に辿り着いてからだった。


「別に構わないわよ。自分らしくない事をした・・・・・・そう思ってしまったんでしょ」


「良く分ったな」


「仲間なんだから当然でしょ。ゼルートはらしくない事をしたって思ってるかもしれないけど、私は正しい事をしてたと思う」


「私も同感だぞ」


アレナの後ろからひょっこりと現れたルウナがアレナの意見にウンウンと頷く。


「私ですらオルトロスと遭遇した時飛び出さずゲイルとどちらがメインで戦うか話す事を優先したというのにあの阿呆が真っ先に吠えながら突っ込んでしまった。そんな馬鹿に比べればゼルートの方が依頼中に休日の時もしっかりと生徒の為に動いてると私も思うぞ」


「・・・・・・そう言ってくれると嬉しいよ。けどなぁ・・・・・・言うだけ言ってあの場を去ってしまったから今更他の皆と顔を合わせるのはちょっとな」


デック達や教師達と何かがあった訳では無いが、それでもゼルートとしては少し顔を合わせずらい気分だった。

特にミルシェとは。


「別にフーリアさん達やソン達は何も気にしていなかったよ。ただ、ミルシェはダンの連れて多分家に戻ったのかしら? 今日の夕食には参加できそうにないといってたし」


「そうか・・・・・・・・・・・・」


「ゼルート、何か勘違いしていそうだがミルシェはお前に対して一切の怒りの感情は無かったと思うぞ。むしろ感謝してるだろう。ダンを連れて行くときに険しい表情をしていたが、それはダンに向けての物だろう。相当怒っていたな。普段のミルシェからは想像出来ない程怖かったぞ」


ルウナの茶化さない表情で伝えられた情報にゼルートは苦笑いになりながらダンに合掌を送った。


(俺は前世に姉や兄はいなかったし、この世界で初めて出来た姉さんは優しいから喧嘩とか一切なかったから解らないけど、基本的に弟にとって姉は逆らえない存在の一つだろう。そんな姉が相当怒ってるってとなると・・・・・・ダンにとって怖いにはミルシェさんだけじゃないだろうからなぁ~~~・・・・・・あいつ明日以降の護衛依頼には来ないかもな)


それは依頼を受けている最中の冒険者として駄目なのではとゼルートは思ったが、考えるのがめんどくさくなり夕食へと向かった。

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