最終話~ミドル11(1)~

GM:ミドル11、シーンプレイヤーは春見だ。シーンインどうぞ!

春見:了解、シーンイン!(ダイスころころ)出目は10か。

 ならちょうどいい、ここで「絆ヴェイトD」の効果を使わせてもらうよ。

GM:タイミング的にもピッタリだね。では登場侵蝕の出目は1になる。


 これで春見の侵蝕率は78%となった。影裏は254%なのでその差は174%──

 その数値を確認し、私は自覚できるほどに悪どい笑みを浮かべた。



 光に包まれた視界が元に戻ると、そこは雨の降る薄暗い住宅街だった。

 湿った空気と土の臭いが纏わりつく──どうやら季節は夏のようだ。

 辺りを見回すも人影は無く……しかし車などの周囲の物品から間違いなく時間遡行が成功している事が窺える。

 どうやら犯行現場とほど近い場所に、春見は現れたようだった。


春見:「……なんだろう、不思議な感じ。自分だけ世界から切り離されたみたい」


 僅かな違和感を覚えつつ時計を確認し、記憶にある犯行時刻と照らし合わせる。


春見:「余りゆっくりできないね。急がなきゃ!」


 犯行現場近くまで駆けつけると、向かう先で女性の悲鳴が上がる。犯行が始まったのだ。


春見:「(今の悲鳴──聞き覚えがある……?)」


 辿り着いた春見の眼に映るのは、凄惨な殺人現場だった。

 家族と思しき三人は、父親は首を、母親は背中を滅多刺しにされ。

 母親に抱きしめられた子供へ今にもその凶刃を突き刺そうとしている。

 遠巻きには悲鳴を上げた通行人の女性──佐倉 透、春見の母親が立ち尽くしていた。


春見:「……おかあ、さん?」


 一瞬呆然と立ち尽くすも、キッと目を険しくして《ワーディング》を展開する。自分の姿が見られるのはマズい、そう判断したからだ。

 それによって透は崩れ落ちるも──薬島 陸は止まらない。


春見:「やらせないっ! ”止まれ”!」


 魔眼を展開し、物理法則を無視した挙動で無理矢理に停止させる。


薬島:「あん?」


 振り下ろした筈の日本刀が獲物の前で静止する。不審に思い周囲を見渡した薬島は、ほぼ透明の、何かがいる事に気付く。


薬島:「ヘェ、消える異能力者なんてのもいるのかよ」

春見:「……一度だけ警告します。殺人をやめなさい」


 問いには答えず、要求を一方的に述べる。ワーディングで気絶しない事から、警戒度を引き上げて対応したのだ。──理由は分からないが、レネゲイド拡散以前から既にオーヴァードだった事が窺えるだろう。


薬島:「その声、女か。冗談キツイぜ、この雨だ。殺すなって方が無理ってもんだろ、なぁ!」


 薬島が、見えない筈の春見を狂気に染まった目で見据える。


春見:「(……明らかに、15年後の方が落ち着いてる。ここは実力行使しかない)

 なら、私が相手になりましょう。普通の人よりは死ににくいから、斬りがいがあると思いますよ?」

薬島:「お、ノリがいいねぇ。ならもう一声、”ゲーム”といこうぜ」

春見:「……ゲーム?」

薬島:「お前が勝ったらそこのガキは見逃してやる。だがもし負けたなら──俺の仲間にでもなってもらおうか?」


 ”仲間になってもらおうか”……それは快楽殺人鬼らしからぬ言動だった。


春見:「……貴方、どう見ても群れるのが好きな性格には見えないけど」

薬島:「ああ。俺だって群れるのなんざ、好きでも何でもねぇよ」

春見:「なら猶更なおさら、何故私を?」

薬島:「ぶっ潰してぇ奴がいてな。姿の見えない異能力を持ってるなら”相性が良い”。そんだけだ」


「大した話じゃねぇよ。で、乗るのか、乗らねぇのか?」


春見:「(姿が見えないのは能力という訳じゃないけど、黙っているほうが都合が良さそう)

 ……いいですよ。ただし、こちらからも条件があります」

薬島:「言ってみろよ、強気な奴は嫌いじゃねぇ」

春見:「私が勝てば、貴方は私の事を含め、ここでの出来事を絶対に公言しない事」

薬島:「あん? ソイツはまた訳が分からねぇな」


 訝しむ薬島を、春見は挑発するように口にする。


「大した話ではありませんよ。さて、どうですか?」


薬島:「ハッ、言うじゃねぇか。良いぜ、その条件でよぉ」

春見:「(かかった)……じゃあ決まりね」

薬島:「ああ、”ゲーム成立”だ。存分に殺し合いを──」


 しかし唐突に言葉が止まる。

 ゲーム……取引が成立した事によって影裏が死亡する可能性が薄らいだ。

 それにより──



GM:影裏お待たせ、シーンインを許可するぜ。

影裏:待ってたぜ。いざ、シーンイン!(侵蝕率+6→現在260%)

GM:影裏。君は春見が得た情報は全て共有されている。ガイアの記憶によるものだ。



 ──どこからともなく集まった光が、人の形を成してゆく。


「……信じてたぜ、春見」


 対峙する二人の間に、立ちはだかる。その声を、聞き違う筈がなかった。


春見:「……結理君──」


 驚きと、それ以上の嬉しさが込み上げる。だが、侵蝕率を魔眼で確認し深刻な表情を浮かべた。


春見:「結理君。その、身体って……」

影裏:「ガイアの記憶に触れ続けた結果だ。正直キツイが──」



「お前を護れるなら、悪くないかもな」



 肩越しに不敵に笑う顔は、春見だけが認識できる。だから──


春見:「……ありがとう。でも無理はしないでね。私だって戦えるから」


 意地を張るように優しく笑いかけたのだ。

 ささやかすぎる幸せな再会。それを邪魔したのは、眼前の敵だった。


薬島:「ハッ、仲良しこよしのお仲間ってわけかよ」

影裏:「……薬島 陸……それに」


 視線が、殺害された両親と、ワーディングで気絶した透さんと──幼い自分へ向く。


春見:「結理君を救うために、彼をここで止めなきゃいけないの」

影裏:「ああ、分かってる。……まさか今更、この悪夢と対峙する事になるとはな」

薬島:「悪夢……悪夢ねぇ。ククッ」


 煽るように嗤う薬島を一瞥いちべつするも、影裏の心は固い。



影裏:「俺は揺れない。やるべき事はハッキリしてる。

 なら……あとはやり通すだけだ。春見と、一緒に」



薬島:「なら、さっさとヤろうぜ。どっちかが倒れ、殺されるゲームをなぁ……!」


 薬島が鞘の無い刀を、まるでナイフのように構える。

 構えこそ刀のそれではないが、刃物の扱いに慣れた動きだ。


影裏:「……行くぞ、春見」

春見:「うん──結理君」


 黒炎を腕に纏わせる姿に、魔眼を煌びやかに輝かせ、応える。


薬島:「さあ、ゲーム開始だッ!」

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る