第二話〜エンディング4〜

GM:それではマスターシーンをやって──

春見:はいGM! 提案があります!

GM:お? どしたい?

春見:佐倉家での日常を描いたエンディングシーンを作りたいです!

影裏:ほーう。

GM:ふむ、日常とな。

春見:具体的には、佐倉家の面々と結理君に手料理を振る舞いたいな、と。

影裏:おお、手料理!

春見:うん。幸せそうな食卓を演出したいな。



 考えるまでも無かった。PLがせっかくやりたいと言って来ているシーンを、演出しない手など(私の中には)ない。



GM:それじゃあエンディングシーンをひとつ追加しようか。内容は基本的に任せても大丈夫かな?

春見:ありがとう。大丈夫だよ。



 時間はお昼前。そろそろ昼食の時間だ。佐倉家の居間には結理と透さんが待機し、春見とアンナさんは台所に立っている。

 今日は珍しく、春見がメインで昼食を作ることになっていた。


影裏:「あー、腹減った……」

 日課の筋トレ後なので余計に空腹。

春見:台所からはトントントンとテンポのいい包丁の音や、クツクツと煮物を煮込む音が聞こえてくる。匂いからして、そろそろ出来上がりのようだ。

透:「春見もずいぶん料理が上手になったわねぇ。お母さん嬉しいわ」

春見:「よし、完成」


 コンロの火を消す音と共に、台所からは春見の上機嫌な声が聞こえる。


アンナ:「春見様、熱いものは私が運びます」

春見:「……ありがとう、アンナさん。味、大丈夫かな? 何か変じゃない?」


 その声音は、UGNでは出したことが無いほどに上機嫌で、本人も楽しげな表情を浮かべている


アンナ:「調味中の味見では、むしろ上出来だったかと」

春見:「……やった♪」

影裏:「……アンナさんにそこまで言わせるとは……これは期待が高まるな」


 アンナも顔には出さないが、雰囲気が楽しそうだ。


春見:「――お待たせしました。はい、今日のお昼ごはんです」

厳蔵:「透や。そろそろ昼飯の時間じゃが──む?」

春見:「あ、お爺様。ご昼食が丁度できましたよ。メニューは、白炊き込みご飯、肉じゃが、大根のお味噌汁にカスベの煮付けです」

厳蔵:「ほお〜、なかなかに見栄えもよい。これは期待できそうじゃな」

影裏:「豪勢だな……作るの大変だったろ」

春見:「ふふっ、大丈夫だよ。料理は慣れればそこまで億劫じゃないから。それに、私も楽しかったの」

影裏:「そっか。そいつはいいことだな」

透:「ふふ、やっぱり食べてもらいたい人がいると料理は捗るものよね」


 補足すると、カスベとはエイのことでこの煮付けは主に北海道で食べられる郷土料理である。春見のPL、mistoさんは北の国のお人であり、その料理を振る舞ってきたのだ。


春見:「うんっ。よし、じゃあ皆でお昼ごはんにしようか」

影裏:「よっしゃ、待ちかねたぜ」

ゾォルケン:「……きゃん!」

アンナ:「ゾォルケンには、私がご飯をあげてきます」

春見:「あ、お願いしますアンナさん」

アンナ:「すみませんが、お先にどうぞ」

影裏:「アンナさんは料理してたんですから、座っててください。俺がエサやっときますよ。ほーれ、今日のご飯だぞー」 ワッサワッサ

アンナ:「それこそ本末転倒ですよ、影裏さん。いいから食べてあげてください」

春見:「えっと……結理君はどうか座ってて。今日は……結理君に食べてもらうために作ったの」

影裏:「お、おう……それじゃ、お言葉に甘えて……」


ゾォルケンがジャンプして影裏の持つ餌袋をひったくる。


影裏:「ってしまった! 犬相手に不覚を取るとは……俺もまだまだだな」


 苦笑を浮かべる影裏。それを一瞥してから餌袋を開けようとするゾォルケン。


アンナ:「ふふ、鍛錬が足りませんよ。──ほら、今出しますから……」

影裏:「さすがですアンナさん……」

影裏:「それじゃあ、食べてもいいか?」

春見:「うん、どうぞどうぞ」

影裏:「それじゃ、いただきます」

 手を合わせ、影裏は春見お手製の昼食に箸をつける。

影裏:「(もっしゃもっしゃ)……こ、これは……!」

厳蔵:「いただきます」

透:「いただきます、春見」

春見:「うん。食べてみて、お母さん。……どうかな? 結理君」

影裏:「うん、美味い……すごく、美味い」

厳蔵:「うむ。これはなかなか」

透:「うん!美味しく煮えてるわね、この肉じゃが!」

春見:「そっか……よかったぁ〜……」

 ヘロヘロと力が抜ける。相当緊張していたようだ

影裏:「おいおい、そんなに緊張してたのかよ……俺はそんな辛口審査員じゃないぞ(笑)」

春見:「いや、ほら。今度千夏ちゃんにお料理教えるでしょ? その先生役が美味しくなかったら大問題だもん。

 それに──結理君には私の味を覚えてほしいし」


最後の方は声が小さくなっていき、聞こえない。


アンナ:「……遅くなりました。味は──好評だったようですね」

春見:「あ、お帰りなさい。アンナさん」

影裏:「この味なら、料理教室も問題ないと思うぜ。やっぱアレか、愛情が詰まってると味も変わるモンなのかな」

アンナ:「……影裏さんは、度胸ありますね」

春見:「えっ……!?」ボッと顔が赤くなる

厳蔵:「……フン」

影裏:「たっぷり詰まってそうだもんなぁ……家族愛」

透:「あらあら、これは一本取られたわね。ね、春見」

春見:「……もうっ、結理君たら」

 ちょっとスネ顔。

影裏:「なぜ不満げなんだ……これでもめっちゃ褒めてるんだぞ?」


 アンナは顔を隠すように味噌汁をすする。その目はどこか不穏だ。


影裏:「春見は、いい嫁さんになるな。間違いない」

春見:「……んぅ〜」

影裏:「あ、ご飯おかわり」

 のほほんと影裏は食事を楽しんでいる。


アンナ:「……影裏さん。あとで鍛錬の間に来てください」

影裏:「……? ええ、わかりました……はぁ、美味しい」



春見:アンナさんの呼び出し……怖い(笑)

影裏:これぜってぇお説教コースじゃん……(笑)

アンナ:いいえ、お説教ではないですよ。 叩 き の め す だ け で す。

影裏:いやん(笑)



春見:「……もう。わかった、ちょっと待っててね。今よそいでくるから」


 春見はおかわりの為に席をたち、台所へ向かった。そして、何気なく、いつも通り慣れた場所のしゃもじに手を伸ばしたのだが──、その瞬間、ふと視界がぼやけ、その手はしゃもじを掠め、空を切ってしまう。

 乾いたプラスチックの音が和やかな食卓に響いた。


アンナ:「どうしました、春見様!」

 ばっと立ち上がる。

春見:「……あれ? ホコリでも入ったかな」

 目をこするも、そのぼやは治らない

春見:「あ、ごめんなさい。大丈夫。しゃもじ落としただけだから」

アンナ:「そうですか──。お気をつけください」

春見:「うん、ありがとう。アンナさん」

 元気そうに答えを返す。しかし、冷や汗がツーッと一筋、顔を伝う

影裏:「…………」

春見:「……」

 恐る恐る、左眼を瞑り、右眼だけの視界を作る。そこには──、全面がどこかぼやけ、焦点の合わない世界が広がっていた。

「――ッ!?」

 悲鳴を上げそうになる口を抑え、残った震える手でしゃもじを拾う。

「……あはは。そっか……あの無理がたたったんだ。…………」


 春見は何とかしゃもじを水洗いし、ご飯をよそい、結理の元へ持っていく

春見:「……ごめんね。ちょっと遅くなっちゃった。はい、ご飯」

影裏:「──ああ、ありがとうな……大丈夫か?」

春見:「うん、大丈夫。さ、私もご飯食べようっと」

 その表情は上手く隠されているが……もしかすると影裏には、もしくは家族の誰かには気づかれたかもしれない。

 春見の、箸を持つ右手が、ほんの少し震えていたことに。

影裏:影裏は……気づくだろうなあ。この場で追求はしないけれども。

アンナ:気にかけていたアンナも気付いたことだろう。


 限りなく平和な食卓に……確かに少しずつ"恐怖"が、非日常が"忍び寄って"きていた──。

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