第6話 土砂降り

「みんな、雨になんか負けないぞぉぉぉ!」と女の子が叫ぶと、チームメンバー達は口を揃えて「うぉぉぉぉ!」と叫びだした。テンションについていけない私は、一緒に叫ぶ事こそできないものの、特にメンバーのテンションに対して否定する事なく小さな拳を上げた。私の中では、精一杯の賛同だった。


やがてザーザー降りの雨はどんどん激しさを増し、私の服は雨の重さですっかり沈んでいた。濡れた重たい服が肌にまとわりついて、ただでさえ動きにくいのに踊ろうだなんて馬鹿げている。でも、皆のテンションに合わせて踊らないと「空気読めない人」って思われるのも嫌だし・・・。


「あなた、踊り初めて?」私の隣にいた女の子が声をかけてきた。「えっ・・・いや、ヒップホップ教室に通っているから初めてじゃないけど。」と言うと「ふーん」と腑に落ちない顔をされた。


「何か、本当に私達と踊る気あるのかなぁと思って。さっきから、上の空みたいな顔してるし。」と女の子はぶっきらぼうに答えた。私は思わずギョッとした。もしかして、私の心の内がばれているのかもと思った途端恐怖になった。


「えっ、いやそんな事ないけど。ミドリ先生には憧れているし、先生の誘いだったから来たんだけど」と言うと、女の子はまた「ふぅん」と言った。


女の子は、やがて雨の中じっと宙を見て考え込んだ後、私に

「ここのメンバーは、みんなミドリ先生に憧れている。そして、本気で大賞とろうって思っている人ばかりだから。その気がない人が1人でもいると、正直迷惑なのよね。みんなでひとつの気持ちにならないと、大賞なんて取れないから。」と言った。どこか少し迷惑そうな顔で、こっちをキッと睨みながら。私は怖くなり、思わず後ずさりをした。


「ちょっと、ちょっと。そこ私語辞めてよね!」遠くから、私達に向かって怒鳴る女の子はまだ小学2年生だろうか。小さな体を目いっぱい震わせるように「何やってるのよ、アキちゃん?2人で勝手に話されたら困るんだけど!」と叫びだした。どうやら私を怒った女の子は、アキちゃんという名前らしい。


「ミホちゃん、ちょっと黙ってて。咲ちゃんがね、さっきからずーっとボーっとしてるから腹立っちゃって」


「しょうがないじゃないの。まだ咲ちゃん?って名前だっけ・・・?


あっ、初めましてだよね?私はミホっていって、今年から私も初めてここのチームで踊るんだ。きっと、よさこい初デビューって意味では私と同じだよね?


よさこいは初めてなんだけど、ダンスは3歳からずっと習ってるから踊りに関しては少しはわかるかな?


咲ちゃんは、今年からダンスを始めたのかな?きっと、まだこの世界の事とかわからないもんね。私も一緒だよ!


だから、これから少しずつ一緒に覚えていこうね」といって、小さくぺこりとお辞儀をした。私も「あ・・はい。」と少し遅れて初対面のミホちゃんと言う女の子にお辞儀をした。



  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る