第34話 廃教会裏 中

【被告って……何も悪いことをした覚えがないんですが……倉?】

【ああ、何もしてねーな。さつき?】

【身に覚えがないです】

【と、我々は無罪を主張するものであります】

【…………ほぉ。というか、倉さん!】

【何だよ】

【その口調、止めてくださいっ! 知らない仲じゃなし、隣で話してる口調と違い過ぎて……背筋が、こうぞわぞわするんですっ!】

【却下。ゲーム内はこういう感じなんだと、俺は】

【だからってぇぇええええええええええええ】


 途中から文字がおかしくなる。はて?

 困惑しているとさつきさんからチャット。


『すいません。今、現実のミネットさんに透子がちょっかいをかけてます』

『あ、なるほど。やっぱり、今日は皆さん一緒に??』 

『そうなんです。撫子が、「……不公平です。お泊り会を開催します」って。それで、撫子の家に』

『はー』


 んーと……画面を再確認。

 いるのは、倉、さつきさん、撫子さん、フジさん。そして、怖い詩人様。……あー、フジさんってやっぱり女性だったんだな。

 ナナちゃんの姿はない。予定が合わなかったのかな? 撫子さんがチャット。


【倉とミネットさん、フジさんがじゃれ合っているので、今からは私が。……ナオさん、さつき】

【は、はい】【なーに?】

【倉を含め三人には、この一週間、SNS上に毎日毎日、楽しそうな写真を投稿し、私とミネットさん、そしてフジさんを精神的に虐めた容疑かけられています。証拠はこれです】


 画面に試験勉強中の写真が浮かび上がった。顔こそ見えないものの、これは僕等だ。

 ……目を閉じる。

 正直、思い出したくない。倉はともかく、さつきさんもあれで、中々厳しい先生だった。


【……酷いです。ズルいです。あんまりです。どう考えても。私はそちら側だった筈です。なのに、なのに、なのにぃ】


 普段は冷静にして可憐。大和撫子そのものである、撫子さんが拗ねている。

 まぁ、倉とさつきさんとは仲良しらしいから、一人だけ除け者にされたのが嫌だったのだろう。

 さつきさんが、笑うエモート。


【撫子は習い事があったじゃない。それに「ナオさんとリアルで会うのは、その、あの……まだ、少しだけ恥ずかしくて……私、倉みたいにスタイル良くな」】


 文章が途中で止まった。どうやら、リアルの方で押さえ込んでいるらしい。

 というか、五人が一緒に部屋でゲームしつつ泊まれるのか。

 ……旅館かなにかかな? 自分の家にそんな広い部屋があるとは。撫子さんち、恐るべし。

 ――携帯に着信。


「はい?」

「直さんっ! 聞いてくださいっ!! この子ったら凄くエッチな計画をっ、むぐっ」

「???」


 倉の声が途切れ、かしましい女の子達の声。「なななな何を言おうとしてるんですかっ貴女はっ!!!」……あれ? この声、何処かで聞いたような。聞かないような。

 首を傾げていると、今度こそ知ってる声。


「すいません、依然として継続中で。試験、お疲れ様でした。私、お役に立てましたか?」

「はい、勿論。期待に応えられたかは結果が出てないので何とも言えませんけど……久しぶりにいっぱい勉強しました。さつき先生、厳しかったので」

「まぁ。そういうことを言う生徒さんにはお説教が必要ですね」

「お手柔らかに願います」

「はい♪ ――直さんと話したい子がいるので代わりますね」

「僕とですか?」

「これ以上、焦らすと奪い取られそうなので、そうなる前に」

「はぁ」


「――も、もしもし」


 初めて聞く涼やかな声。少しだけ震えている。

 チャットだけでも、分かるものだなぁ。

 思わず笑ってしまうや。


「直です。撫子さん、ですか?」 

「は、はいっ、そ、そうですっ」

「えっと……倉が嘘を言ってなければ僕の方が年下ですよね? ため口で」

「む、無理ですっ。その、あの……もうこういう口調に慣れてしまっているので――改めまして、撫子です。透子とさつきが、ご迷惑をおかけして……」

「いえいえ。とんでもない。……確かにちょっとだけ厳しかったですけど。特に倉が」

「……私も直さんに教えたかったです」

「さつきさんからは、撫子さんの方がずっとずっと鬼教官ですよ~、と脅されてたんですが……」

「ち、違いますっ! さつきっ!」


 「えーだって、事実じゃない?」という笑い声。本当に仲良しなんだなぁ。

 何となく温かな気持ちになる。ほんわか。


「な、直さん、誤解しないでくださいね? 私はそこまで厳しくはなくてですね。あの、その……と、とにかくっ! 今回は御一緒出来ませんでしたが、次回は私が責任を持って直さんを勝たせますので」

「いや、今回だけかと思うんですが……」 

「――私じゃ、ダメ、ですか?」

「!?」


 お、恐ろしい破壊力。

 声だけでこれ程とは……流石、流石は撫子さんっ。

 何処ぞの、ゲーム内とリアルが違う違う詐欺な奴だったり、何時の間にやらリアルで繋がってる某詩人様とは違うっ。


「直さん?」

「あーいえ…………次の機会はよろしくお願いします」 

「はい♪ でも、その前に今夏は、あの……リアルで、お、お会いして」

「直さんっ! この子、普段、どう教育してるんですかっ! 先輩に対する態度がなってませんよっ!!」


 突然、倉の大声に切り替わった。

 耳が、キーン、とする。


「五月蠅い。そろそろ切るぞー。撫子さんとさつきさんによろしくな。それと、フジさんに変なことするなよ? きっと、いい人なんだろうから」

「……私に対する態度がぞんぞい過ぎます。まぁ、この子へもですが。残念でしたねぇ? 直さんは貴女を大切にしてないみたいですよぉ?」


 何故、そこで煽る。

 またしてもかしましい。そして、電話は切れた。

 ……ナオを見る。

 あれ? 今なら、逃げ切れるのでは?

 よし! 逃げ――撫子さんが後ろへ回り込み、抱き抱えた。


【ナオさん、ダメですよ? まだ、判決を出していません。待て、です】 


 あ、そうですよね。それはそれ。これはこれ。ちょっと怒ってらっしゃいますよね。

 ……素直に降伏した方が良いかなぁ。

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