第21話 相談①
「―—今から裁判を開廷します。被告人、前へ」
「えーミネットさん……僕は、これから作戦会議をですね……」
「黙って下さい。発言は許可されていません。……この浮気者」
「えぇぇ……」
思わず、チャットと同じ呻き声が画面前で漏れる。
現在、ナオがいるのはアクアフォレストの集会場。ゲーム内一日単位で借りられる会議室みたいなもので、借りたキャラの許可がないと入れない。
で……集まっているのは、今回、声をかけたフレンド達だ。
まぁ精々、半分くらいかな~と思っていたら、みんな来てくれたのは素直に嬉しいし、有難い事だ。この恩は返さねば。
そう思っていたのになぁ。
「では、皆様、先程、送付されてきた写真を再度御覧下さい。被告の顔は映っていませんが……証人の言では、あ~ん、をされているのは間違いなく被告とのこと。まずこの点について、皆様どう思われますか?」
「……ナオさん……どうして……」
「ナオ君、これは駄目だわ。ミネットちゃんや撫子ちゃんの気持ちを考えないと。鈍感男がモテるのは二次元だけだからね? こいつがいい例」
「はぁ!? 俺は別に鈍感じゃ……OK。分かった。俺が悪かった。……ナオ、諦めてゲロっちまえ」
「……ナオっちさー、そうやって節操ないの、ボクはどうかと思うよ? 今に痛い目見ると思うなー」
「先輩っ! 酷いですっ! 今度は私も連れて行ってくださいっ。彼氏、紹介したいですっ」
「……発言許可を」
――事の発端は、例によって倉のしでかした阿呆な行動からだった。
夕方、倉達とお茶をした後、19時にログインしてみんなの知恵を借りるべく、連絡を取っていたら、何時ものように20時にやって来たミネットさんから、突然の召喚状。
言ってみれば、何時もの面子――ただし、倉と皐月さんは不在―—が集結。
で、話を聞いてみれば、何のことはない。SNS上で、あっさりとケーキの写真を投稿していたらしいのだ。……勉強出来るのに、どうしてこう抜けているのか。
で、いきなり裁判。酷い。
「許可します。感謝してください」
「……あのですね。正直、何故にここまで責められるのか分からないんですが。倉とは、時折会ってますし。あれだって、ああしないと協力しないって……皐月さんまでそう言うんですよ? 断れません」
「そこです」
「?」
「ナオさんはよくこう言われています。『現実とゲームは分けたい』と。な・の・に! 倉さんだけ例外なのは、何故ですか! これはダブルスタンダードです! 倉さんとケーキを食べに行くのなら、私と一緒に行ってもいいではありませんかっ!」
「いや、そこまで言われるなら別にいいですけど。倉とはリアルで会った事あるんですよね? 都内に引っ越されたんなら、会えなくもないですし……今度、一緒に行けば良いのでは? 流石に、いきなり明日、とかは厳しいですけど」
「―—証拠写真を撮りました。私もそろそろ期末試験が近いですし、いきなりは無理ですが、必ずケーキを奢ってもらいますから。ギークさん、取りあえず、オフ会の日程調整を至急お願いします」
「お、おぅ」
「ナオさん、私も、その」
「もういっそ、みんなでケーキを食べに行きましょう。むしろ、ギークさん、奢ってください。社会人の力を!」
「あーいいけどよ。せめて、もうちょい野郎を増やそうや。お前と俺と、フジはまだ、バレて」
「……ギーク?」「……それ以上言ったら、色々とばらして……」
「オレハナニモイッテナイゼ。つーわけで、野郎が少な過ぎるだろ? 誰かいねぇのかよ」
「? そもそもそこまでフレが多くないですからねぇ。後は、同志! 位ですかね? 関東圏っぽいのは」
「あーあいつな。でも、最近、見てねぇが?」
「そうですねぇ。まー声はかけときますよ」
同志! はナオと同じく白魔を愛する小人族で……今は、白ソロという修羅道に堕ちてしまった悲劇の怪物である。装備の色も真っ赤だし。何でも、返り血をイメージしているらしい。
プレイヤースキルとしては、おそらくこのサーバーにいる全プレイヤー中、確実に最上位だろう。ただ、長らくパーティ戦闘をしてないので、心はとてもとても荒んでいる。
次回のアポピス戦にも是非、呼びたいのだけれど、最近、ログインもしてないしなぁ……。メールも反応無し。
多分、倒すべき相手を全て倒し終えてしまった反動かもしれない。本来は二十数名必要な相手を倒した動画をこの前投稿してたし。
因みに『変態白』とかって検索すると引っかかる。まぁ事実だから何とも言えない。
「それでも三人だ。……ナオ、お前、前々から思ってたんだが、フレの殆ど♀じゃね?」
「そんな事はないと思います。ただ」
「ただ?」
「関東圏にいません」
「あー……ドンマイ。まぁ、オフ会で自分の貞操だけはm」
ギークさんのチャットが突然途切れ、動かなくなる。
……多分、隣のライラさんにリアルで何かされたのだろう。貞操って。大袈裟な。
『フレの殆ど、女性なんですか? あと、倉さんと皐月さんを『綺麗』って言ったのは本当なんですか? 嘘ついたら、針百万本です』
廃神詩人様が何時にもまして、御乱心。
リアルで倉と会ってるだろうに。
『ミネットさんも、知ってるでしょう? 倉は本物の御嬢様なんですよ。……毎回、詐欺かと思いますけど。皐月さんもお綺麗な方でした。因みに付き合い長いですけどほんと何もないです。年下は眼中にないんだと思います』
『……今度、会って確かめます。で、やっぱり、撫子さんの件だったんですか?』『流石。その通りです。気にされてるみたいで。僕等も、期末試験ありますし今週いっぱいが動ける限度です。何とか、ここで』
―—相変わらず聡い人だ。次回は、メイン盾PTで一緒に組みたいな。
何せ、とにかく耐えに耐えないといけない。前回は、メイン盾三枚だったけれど、一枚減らすか、極端な話、撫子さん単独盾にして、後衛を分厚くする編成はありかもしれない。
「では――今度こそ始めます。お題は『アポピス再戦』についてです」
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます