第22話

 早々にレストランを後にしたメアリーたちは、車を借りて、基地のそばまでやってきていた。


「そういえば」

「何?」

「一つ疑問があるんですけれど」

「言ってごらんなさい」

「……別の星に移動するにはどうするつもりなんですか?」

「そりゃあ、船を奪うかちゃんとしたやり方で移動するかのいずれかね」

「ちゃんとしたやり方、とは」


 メアリーは胸を張って答える。


「そんなことも知らないのかしら? カトル、そしてほかの三つの星とアースは定期便で結ばれているのよ。だからアースみたいにステーションがあって、そこから宇宙の旅に出られるわけ。それを利用するの」

「成程……?」

「それ、絶対分かってない顔よね?」

「分かりました?」


 メアリーとリニックの茶番はそこそこにしておくとして、


「……で、話を戻しますけれど」


 呆れてしまったのか、溜息を吐いてからレイニーは話し始めた。


「問題はどうやって剣を手に入れるのか。そして、剣を抜いた後に『封印』はどうすべきなのか」

「何言ってんの。破壊するに決まってるわよ。その為に私は命削ってまで眷属と契約までしたんだから」

「眷属……ライトニングのことですか? 正直、彼女を一戦力として考えるのは、」

「言っておくけれど、今回の任務は彼女が居ないと成立しない」


 メアリーははっきりと言い放った。

 しんと静まり返った空間を見回して、さらに彼女は話を続ける。


「彼女の能力を使うからこそ、私たちは組織として活動出来るといっても過言では無いわ。それに、あなたが思っている以上に彼女は優秀よ。……まさか、そんなことも分からなかったの?」

「分かるわけないじゃないですか。簡単に力量を推し量ることなんて出来やしませんよ。……なら、いいですけれど」

「そうそう。素直に認めるのは良いことね。……話を戻すけれど、ライトニング、あなたの体調は問題ないわね?」

「問題ないの。私の能力を使えなくするような特殊なプロテクトもかかっていないようだし、あっという間にクリア出来るの」


 こくこく、と頷いて見せつけるように金属バットをこちらに動かすライトニング。

 正直、いつそれを何処から召喚して、また仕舞っているのか分からないし、何故金属バットなのかも分からなかった。

 そこの辺りに関しては、正直『理解しなければならない』ところなのだろう。リニックはそんなことを思っていた。


「……とにかく、一つ聞いておきたいんですけれど、『封印』って何ですか?」

「言っていなかったっけ? 要するに、偉大なる戦いで星が五つに分かれたでしょう? それと同じように人間と、メタモルフォーズも、五つに分かれたのよ。けれど、アースを含めた五つの惑星は運が良いことに剣をもって封印となった。それが、封印」

「つまり……メタモルフォーズが目覚めるってことですか!?」


 メタモルフォーズ。

 今の時代からしてみれば、アースの大半を占める赤い海に蔓延っている存在であり、人類の永遠の敵であると認識されている。

 その存在と、戦う日がやってくるなんて夢にも思っていなかった彼は、身震いした。

 正確には、武者震いか。いずれにせよ、震えが止まらなかった。

 そこに、レイニーが手を取った。

 彼の手を、レイニーの手が触れた。


「……レイニー」

「震えてる。しっかりなさい、あんたは英雄なんだから。英雄と呼ばれる存在なんだから。だからあんたがしっかりしないと、この作戦は上手くいかないの。オーケイ?」

「……オーケイ」

「よっし! それくらい理解してくれればあとは問題なし! 夜まで待機して、基地へ侵入するぞっ! 準備は良いかな?」

「オーケイ」

「オーケー」

「オーケイなの」

「よっしゃあ! じゃあ、休憩するわよっ」


 どこからか取り出した人数分の寝袋とテントを持って言うメアリー。


「……どこから持ってきたんですか、なんて話は野暮ですよね」

「ええ。分かってくれて良かった。これは、ライトニングがつなげられる異世界に置いてあるの。流石でしょう? 眷属の力をこう使うのはどうかと思うけれど……。ま、彼女も了承して貰えているし、問題ないと思うわ」

「問題ないの。その代わりのものも貰っているし」

「代わりのもの?」

「さあ! 眠りましょう……なんて言っても簡単に眠れないわよね。ここで一つ、英雄譚を語って上げましょうか。昔々の物語を」

「聞き飽きましたよ、百年前の物語なんて」

「そんなこと言わないの。じゃあ、話し始める前にテントをちゃっちゃと組み立てましょう!」


 そして、彼女たちはテントの組み立てに取りかかる。

 本当にこんな気分で良いのだろうか――なんてことをリニックは考えながらも、彼女たちに流されてしまうのだった。



 ◇◇◇



 そして、その様子を眺めていたのは、カラスミ=ラハスティだった。

 カラスミが持っていた双眼鏡を、兵士に渡す。


「……どうですか?」


 兵士の問いに、頷くカラスミ。


「恐らく、彼らが言っていた『密航者』に間違いなさそうね。……ま、放っておきましょう」

「……え? 今、なんと?」


 兵士は、耳を疑っていた。

 カラスミが言うはずの言葉と別の言葉を聞いたからだ。

 カラスミは深い溜息を吐き、踵を返す。


「だから、言ったでしょう。放っておきましょう。どうせ、あいつらは必ず基地に入って『剣』を手に入れる。だから、待ち構えてやりましょう。……良いわね? 絶対に手を出しちゃいけないからね?」

「わ、わかりました」


 兵士は敬礼をして、カラスミに答える。


「宜しい。それじゃあ、私は休憩してくるから」


 踵を返すと、カラスミは見晴台から去って行くのだった。


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