ギャル探偵登場!

 九月になってだんだんと日が短くなってきた。まだ半袖で大丈夫だけど、そろそろ服装のことも考えないといけない頃合いになってきた。

 大学を散歩するなんてつまらないけど、眠かったからちょうどいい。

 どこからか甘い匂いがする。

「やぁ、君か」

 びっくりして声の方を向くと、ギャル探偵の宮副紗々みやぞえささだった。

「先輩、驚かさないでくださいよ」

「驚かそうとしてるのは君だよ。お姫様なんかを連れてきてなにをする気なんだい?」

「なんで知ってるんですか?」

「うーん、残念ながら、知ってるんだよねー。ボクの目を欺こうなんて百年早いから」

「別になにをやろうとしてるわけじゃないんですけど、黒崎先輩が演劇部の台本を書いて、それをミズキが演出するって話です」

「面白そうじゃないか! そんな話になんでボクを入れてくれないんだい?」

「いや、探偵さんはなにをやるんですか? 探偵のスキルほとんど関係ないじゃないですか」

「そう言わないでよー、いけずー」

 宮副先輩は僕におっぱいを押し付けてくる。たぶん、ミズキより大きい。嬉しいが悲しい。

「ボクだって演技くらいできるんだからね」

 いやいや、あなたの演技はある意味、人を欺くためのものでしょ? 演劇における演技とは違うと思うんだが……

「本当にやりたいんですか?」

「いや、いいや、今は。事件はないけど、忙しいから」

「そうですか、わかりました」

「君は、ボクに対して冷たいよねー」

「そうですかね」

「そうだよー。結局、夏の事件の顛末を教えてくれたの、ついこの前だし」

「それはすいません。色々あったんで、一つ一つクリアにしていったら先輩のところが最後になったんです。本当にすいません」

「まぁ、君のことだからいいけどね」

 宮副先輩は持っていた電子タバコを吸って吐いた。タールもニコチンも入っていないものだ。

 吐き出す煙は、甘ったるい水蒸気であたりに立ち込めるが、すぐに風に乗って消えた。

「でもさ、楽しい話があったらさ、仲間に入れてよね!」

「あー、はい、いいですけど。先輩の言う楽しい話っていうのが、なんか悪だくみみたいに感じられるのは僕の勘違いですかね?」

「勘違いじゃないんじゃない?」

 僕の周りに先輩たちは本当にタチが悪い。

 僕は時計に目をやる。

「そろそろ、僕は行きますね」

「んじゃね」

「はい、また」

 ギャル探偵はそう言って立ち去った。

 僕もその場を立ち去った。

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