♯05
[冒険者ギルド〈セイン〉]
時刻は一一五八、冒険者ギルドが最も混雑する時間帯である。
僕は冒険者ギルドの受付に出来た長蛇の列、その最後尾で、物思いに耽っていた。
「はぁ……失敗したなぁ…。」
博士の書いた術式についてだ。
博士が持たせてくれたショートソードに標準装備されていた高性能な術式であり、仮にも研究者である博士の珠玉の作品。実は僕は、ショートソードを受け取った時からその欠点に気がついていた。
それは、魔力効率の悪さ、である。
この世の全ての術式は"議長"が作ったとされる、所謂“ベース術式“なるものが存在し、“攻撃”や“防御”、“回復”といった数々種類のあるそれに機能や効果を付けていく、という形で成り立っている。
ここで注目したいのは、
あの博士は間違いなく天才だ。
…いや、僕のような発達途上のAIにあんな高性能な術式のついた剣を渡してしまう辺り、天然ではあるのかも知れないが、それでも天才だ。
何せ、あのような
だから、僕が改良したのは、博士の術式自体ではなく、その下。
だから、博士にちゃんと「改良したのはベース術式の方です」と伝えておけば、博士もあんなに怒りはしなかったのではないだろうか、という考えにたどり着き、軽く後悔していた。
と、僕の前の人が受付の前を退く。お馴染みの受付嬢、猫獣人のケニーがそこにいた。
「あ、セインニャ!初めてのダンジョンはどうだったかニャ?」
「こんにちは、ケニーさん。ちょっと深く潜ったので、日にちの感覚がなくなってしまいましたよ。モンスターの討伐部位の確認と、素材買取お願い出来ますか」
「またまたセインはおかしな事を言う新人だニャあ。ダンジョンに初めて入った新人が、時間感覚が狂う程潜れる訳ニャい…」
「あこちら件の討伐部位になります」
「ニャんと!?」
僕が、暴虐のダンジョン
…大した量じゃないと、思うんですけど?
◇
[暴虐のダンジョン
僕は、
博士に、冒険者登録から一週間経っていないのに
「ああ怒られるまた怒られる。さっき怒られたばっかでまた怒られる。さっきの怒りも鎮まってないだろうし物凄い怒られる。」
『……報告。博士への報告義務は自分にあるものだと報告する。』
「……それを先にいってくれよ…」
今は猫の姿をとるガラハットに僕はジト目を向ける。
『……博士へ報告するのは当機なのだが。』
「それはマジゴメンぐっどらっく。」
安全地帯でどこか楽しげに会話する僕達。ガラハットが僕の軽口に文句を言おうとしたその時、
『―――――ドコマデ、覚エテイル?』
『「!?」』
――――安全地帯の入口のすぐそばに、仮面をした人影があった。
「っ戦闘態勢!」
『了解!』
見た目は、女。黒くて丈の長いコートを羽織っており、辛うじて身体のラインが見える程度だが、恐らくは女で間違いないだろう。しかし、聞こえた声は無機質で、まるでガラハットの劣化版のように聞こえた。
『…当機への侮辱を検知。』
「今はそれどころじゃ」
『―――――私ガ、分かラナイか。まァ、シカたナいダロウ。アンナ反応をシタのダ。対策クライは取ッテ然ルベシだな。』
『疑問。先程から一体なんの話をしている。』
『黙レ。オーダーなンかに用ハ無イ。ワタシガ用がアるノハ、オマエだ――――セイン。』
「?」
『聞ケ…私にはもう時間が無い。もし貴方が
そう言うと彼女 (?)は、僕の返事を待つことなく、ダンジョンの闇へと消えていった。
僕とガラハットは、臨戦態勢をとってはいたが、
「……ガラハット。このボディの欠陥を発見。博士への早急な報告を要請する。」
『了解。強大なエネルギー反応検知による神経装置の麻痺を報告。』
「…"仮面"…」
彼女の消えた方向をみて、僕は拳を握り締めた。
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