♯03

あのへなちょこ冒険者達に会ってから既に二十七時間三十五分二十九秒が経過しており、僕はその時間を全てダンジョン攻略にあててきた。


ダンジョンに現れるモンスターに、僕のハイスペックな肉体と最新鋭の術式を刻み込んだショートソードの繰り出す攻撃に耐えられる個体はおらず、ただ僕の経験値と化している。


博士曰く、この機体は現時点で最高の魔術と素材により構成されたハイブリッドなモノで、限り無く生物に近く、そのためレベルアップなども可能なのだという。

おまけに、周囲の魔力を取り込み自分の魔力にする、という機能を持ったパーツを積んでいるため、魔術を使ったとしても休憩する必要がない。

ゆえに、二十七時間以上無休でダンジョン攻略するという強行軍が可能となっている。


ちなみに僕は今、ダンジョンの第五階層にいる。


さて、ここで確認しておきたいのが、「ダンジョンとは何か」という問いだ。


それを説明するには、まずこの世界、アリウスの中で最も権力を持つ者の話から始めなくてはならない。


“議長”と呼ばれ、2200年以上続くアリウスを引っ張ってきたカリスマ的存在の魔族で、魔族の平均寿命が500~1000年であることから分かるように、相当魔術に秀でている。

その名は…おかしいな。名前の記録が無い…


…まぁいいや。とにかく、その“議長”が、この世界を取り仕切る実質的なトップだ。


そして、この世界に存在するいくつもの人種、エルフ、ドワーフ、獣人、魔族などの“知恵有ル者”が、何らかの激情の下“力“を求めた時、その者の捧げる代償に応じて、この世界の“魔”を司る“議長”が存在の格を上げることによって求めた力が得られるという現象があり、その“力”を得た者達のことを、この世界では“魔王”と呼ぶ。


魔王達が代償にしたモノは“神器”と呼ばれ、それを奪えば魔王の力が手に入るとされている。

そして“魔王”達が“神器”を隠したのがダンジョンだといわれている。


つまり、管理する魔王によってダンジョンは千差万別であり、このファーストの“暴虐のダンジョン”は、まるで入る者を少しずつ痛ぶって楽しむかの如く、階層を進むにつれて加速度的に攻略難度が跳ね上がる。



…が、それは“一般の冒険者にしてみれば“という話であり、僕のような所謂“規格外”にはまるで通用しない。それゆえ、このあたりのモンスターなど所詮は“経験値”でしかない。



へなちょこ冒険者達に会ってから四十五時間経過、これより“暴虐のダンジョン”第六階層に突入する。



冒険者達に会ってから五十七時間経過、これより、“暴虐のダンジョン”第七階層に突入する。



六十時間経過、博士より帰還命令あり。直ちに研究所へ帰還する。



「「「……ドッキリ大成功ッ!!!!!」」」

「!」


気付けば、通い慣れたギルドの酒場にいた。

俺たちと親しくしてくれている先輩冒険者達がずらりと並び、満面の笑みで此方をみている。先のぴったり合った言葉からすると、俺たちをわざと・・・調子に乗せ、安全マージンを越えた階層に挑ませ、その鼻っ柱を折った、という所だろうか。

となると………あれは?俺たちを救ったあの恐ろしく強い冒険者は、一体何だったのか?

俺は、一番親しい先輩に問うた。


「……あの人は誰なんだ?」

「あの人?お前さんまさか、不死者アンデットに知り合いでもいたのか?だったら残念だが、その人はもう…」

「ッ違う!俺たちを囲んでた百体ちょっとの不死者アンデットをものの数分間で皆殺しにした、あの冒険者も仕込みなのかッて訊いてんだ!」


途端にギルドが静まり返る。


「………今日ダンジョンに潜る許可が下るのは、この作戦を成功させる為にお前らだけだ。そういう風に話がついてる。」

「…つまり?」

「…お前たちを助けられる冒険者……そんなのはいねぇ筈だぞ」


……ゾッとした。


「いたんだよ!白髪はくはつで黒い外套を着て…顔は遠くてよく見えなかったけど、右手に握ったショートソードを一振りするだけで触れてもいない不死者アンデットを幾つも真っ二つにした冒険者が!俺だけじゃないぞ!?俺たちパーティー皆見たんだ!」




こうして、冒険者ギルドに、“暴虐のダンジョンの死神”という都市伝説が出来たというが、セインはまだ知らない。

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